中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

顧客本意の表示・広告の必要性(2008年3月号)

1.表示・広告の規制

近時、食品表示をはじめとする各種業界の表示や広告を巡り、様々な問題が浮上し大変な話題となっています。

例えば、食品の表示については、品質に関する適切な表示を目的とした「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)、食品衛生上のトラブルの防止を目的とした「食品衛生法」、内容量等の表示に関する「計量法」、虚偽・誇大な表示等を禁止した「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)、不正競争の防止を目的とした「不正競争防止法」といった法律の他、各都道府県などが定める条例、さらには、業界ごとの自主ルール等により厳格な規制がなされています。

また、昨年9月、投資性のあるリスクの高い金融商品を横断的に規制することを目的とした金融商品取引法が施行されました。これは、証券取引法が法改正によって名称を変更されたもので、厳格な広告規制等の行為規制が定められています。

以上は一例にすぎませんが、このように、表示・広告規制に関する法律等は膨大に存在し、対象商品を扱う事業者は、これらを全て遵守する必要があります。

今回は、どの事業者にも共通しうる「景品表示法」、「不正競争防止法」の表示・広告規制について見ていきたいと思います。

「顧客本意の表示・広告の必要性」

2.景品表示法

景品表示法は、不当な顧客の誘引を防止して、一般消費者の適正な商品・サービスの選択を確保することを目的としており、(1)優良誤認表示、すなわち、一般消費者に実際のもの又は競争業者に係るものよりも著しく優良であると誤認されるような表示を行うこと(景品表示法4条1項1号)、また、(2)有利誤認表示、すなわち、一般消費者に実際のもの又は競争業者に係るものよりも著しく有利であると誤認されるような表示を行うこと(同項2号)、その他誤認されるおそれがある表示(同項3号)をすることを禁止しています。

  • 中古自動車を販売する際に、中古自動車のメーターを巻き戻して走行距離をごまかして表示した
  • 食肉を販売する際に、ブランド牛ではない国産牛肉を国産有名ブランド牛であるかのように表示した
  • パソコンメーカーが、「この新技術は日本では当社だけ」と表示していたが、実際は他社も同じ技術を採用したパソコンを販売していた
  • 利用者の体験談やアンケートを用いて、食べたらやせるかのように表示したダイエット食品について、体験談等がねつ造された内容だったうえ、効能の実証データも根拠のないものだった
  • 超音波や電磁波によって、ゴキブリやネズミを家から追い出すと表示した害虫駆除器について、実際にはそのような駆除効果、効能が認められず、表示の根拠もなかった
  • 有利誤認表示の例としては、次のような表示が考えられます
  • 入会キャンペーンとして、抽選で100名に賞品を提供と表示したが、実際には当選本数を少なめに調整していた
  • 市価600円の商品に、「市価1000円を500円で提供」と表示した
  • 一部の商品だけ5割引なのに「全品5割引」と表示した
  • 酒類量販店が新聞の折り込みチラシで、「地域一番の安さ」と表示したが、実際は周辺の酒店の価格調査をしておらず、根拠のないものだった
  • 携帯電話通信事業者が、店頭チラシの料金比較で、自社が最も安いように表示したが、実際は、自社に不利となる割引サービスを除外した比較だった

公正取引委員会は、優良誤認表示等に該当するかどうかを判断するために、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すデータの提出を事業者に求めることができ、当該事業者がその資料を提出しないときは、優良誤認表示とみなされ、排除命令が発せられることとなります。

3.不正競争防止法

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を促進することで国民経済の健全な発展を実現することを目的としており、周知な商品等表示の混同惹起(不正競争防止法2条1号)、著名な商品等表示の冒用(同条2号)、原産地・品質等の誤認惹起表示(同条13号)、競争関係にある他社の営業上の信用を毀損する行為(同条14号)等を禁止しています。

周知な商品等表示の混同惹起の例としては、次のようなものが考えられます。

  • 大阪の有名かに料理屋の名物「動くかに看板」と類似した「かに看板」を使用した

著名な商品等表示の冒用の例としては、次のようなものが考えられます。

  • 三菱グループに属さない建設会社が、三菱の名称及び三菱標章(スリーダイヤのマーク)を使用した

原産地、品質等の誤認惹起表示の例としては、次のようなものが考えられます。

  • 豚肉を混ぜたひき肉を牛ミンチと表示して出荷した

信用毀損行為の例としては、次のようなものが考えられます。

  • 事実に反し、競争会社の取引先に、競争会社が倒産しそうだと通知した
  • 事実に反し、競争会社の商品に欠陥があると公表した

禁止行為を行った場合、相手方は民事上の措置として、差止請求、損害賠償請求等をすることが可能となりますし、また、刑事処罰の対象となる場合もありますので、注意が必要です。

4.景品表示法と不正競争防止法との関係

両法律は、公正な競争を確保するという目的を共通にするため、禁止行為には共通点が多く見受けられます。

しかし、景品表示法は、消費者保護の観点から、その実現手段を公的機関である公正取引委員会による行政的規制に委ね、不正競争防止法は、基本的には、その実現手段を競争者である事業者の民事的な請求権に委ねたため、規制対象や規制の仕方に違いがあります。

5.まとめ

景品表示法・不正競争防止法をはじめ、表示・広告規制に関する法律等は膨大に存在しますが、表示・広告をする際に、一度第三者である顧客の立場に立ち返り、顧客に誤解を与えるような過大な表示・誇大広告を行っていないか、合理的な根拠に基づいた表示・広告を行っているかという点から見返してみれば、自ずと正しい表示・広告となるはずです。

顧客本位の表示・広告である限り、過度に法令違反をおそれる必要はないといえます。

H20.03掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。