中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

CEOって何?

日本の新聞や経済誌で頻繁に経営トップの肩書きについて、CEOという言葉を目にします。有名なところでは、ソニーの出井代表取締役会長兼CEOです。CEOは最高経営責任者と訳されていますが、CEOとは何でしょうか。「最高経営責任者というのは社長ではないのかな」とか、「取締役会長や社長とは違うのかな」などと疑問に思った読者の皆さんはいませんか。今回は趣向を変えてCEOの話をしましょう。

「ソニーが業務執行役員制度を導入した」ということはご存知でしょう。実はCEOは業務執行役員のトップのことなのです。CEOとはchief exective officicerの略で、最高経営責任者と訳されていることは先に述べたとおりです。しかし、日本の法律(商法)では業務執行役員という制度を設けていません。日本企業における業務執行役員制度の導入は、アメリカの制度を取り入れたものなのです。

では、アメリカの株式会社はどのような経営体制になっているのでしょうか。

アメリカでは経営体制を取締役(director)と執行役員(officer)に分けています(もっとも州ごとに法制度は若干異なります)。

すなわち、取締役会(board of directors)は、株主の利益のために株主総会において選任された取締役で構成され、会社の業務執行に関する意思を決定する機関であり(この点は日本と基本的に同様です)、具体的な会社の業務執行は、執行役員(officer)が担うものとされるのです(この点は、商法を前提とした多くの日本企業と異なります)。

CEOって何?

執行役員には、社長(president)、副社長(vice president)、総務担当役員(secretary)、経理担当役員(treasurer)、等があり、これらの者は取締役会で選任されることになります。

CEOって何?

以上のように、取締役はあくまで、取締役会において会社の意思決定に参画し、執行役員の業務執行を監視する責務をもつもので、具体的な業務執行を行なうことは予定されていません。その結果、社外取締役でも取締役として職責を果たすことができ、あるいは社外取締役であるからこそ忌憚のない意見を述べて会社の業務意思決定に参画でき、執行役員を監督できることとなるのです。手元の文献では、アメリカでは大会社の取締役会は月に1回程度開かれるが、取締役の出席率はほぼ100%だということです。これは、出席率が株主に公開され、出席率が悪いと株主総会で解任されることとなるからだそうです。

執行役員に対する監視の仕方としては、最終的には解任ということになります。実は、アメリカの取締役(とりわけ有名企業から招聘した社外取締役)の大切な任務のひとつがCEOに対する評価だと言われています。

報酬の決定はこのような評価の一環で、取締役会の下に報酬委員会とでもいうべき委員会があり、ここでCEOを含む業務執行役員の業績の査定を行い、報酬が決定されます。例えば,数年前IBMの業績が落ち込んだとき、ときのCEOは会社危機に対して十分な働きをしなかったと査定し、ボーナスをゼロとしました。このような報酬の査定はー常勤の取締役では無理と判断されるからでしょうかー報酬委員会の構成メンバーはほとんどが非常勤の取締役だけで構成されているという報告があります。

また少人数からなる取締役会では、迅速な意思決定をすることが可能となります。めまぐるしく変わる経済情勢に迅速に行動し、十分に議論するには適正規模の員数でないと対応できない、というわけです。

以上に対し、執行役員はまさしく業務を執行する役員であり、取締役であることを要しません。執行役員である社長は、たとえ同時に取締役であっても、社長という立場では基本的には取締役会や株主総会の議長という立場以外何の権限も有しないものとされています。決して最高経営責任者ではないのです。

最高経営責任者は執行役員のトップであるCEOなのです。CEOは会社の経営活動に関して最終的な意思決定権限を有し責任を負う会社役員です。執行役員は取締役会によって決定された基本的方針に基づいて会社の経営を担うのですが、具体的経営戦略は執行役員が策定、決定し、取締役会にはその承認を求めることとなります。

このように執行役員は経営に深く関与するから、株主代表訴訟の対象ともなっています。

なお、CEOは、取締役会長(chairman of board of directors 大会社にあっては社長より上位の役員として、取締役会長が取締役会及び株主総会を主宰することが少なくない)の地位を兼ねる場合もあるし、社長の地位を兼ねる場合もあります。

このようにアメリカでは、会社の業務執行者と監督者とが分化しているのですが、当初からこのようなシステムが採用されていたわけではなく、70年代初めに不正政治献金問題とか、ロッキード、ガルフ石油問題、といったような不正問題が生じたのを機に、アメリカの模範商法典が大幅に改正された結果です。

我が国の執行役員制度はわかりづらいものとなっていますが、我が国の執行役員制度は、以上のようなアメリカの制度を倣ったものなのです。

H12.10掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。