近江法律事務所トップ > 中小企業の法律相談 > 株券を紛失したときの手続きが変わりました



株券を喪失したとき、喪失した者はどんな不利益を蒙るでしょうか。
まず、株券を喪失したからといって、直ちにその者が株主たる地位を失うわけではありません。例えば、落ちていた株券を拾った人がいても、落とし主は依然株主であり、拾った人が株主になるわけでありません。落とし主は、拾った人に株券の返還を求めることが出来るのです。この場合、拾った人は、落とし主に対し、遺失物法に基づき、当該株券の価値の5%以上20%以下のお金を報労金としてもらうことができるのみです(同法5条)。
しかし、株券は有価証券ですから、転々譲渡されてしまうことが起こります。転々譲渡され、現在の株券所持者が、当該株券を譲渡した者が実は真の権利者でなかったということを知らず、また知らないことに重過失がなかったときは、現在の株券所持者が真の権利者となります。善意取得と言われるものです。その結果、落とし主は株主の地位を喪失することとなってしまいます。
したがって、株券を喪失した者は、何らかの手続きをとらなければ、大変な損失を蒙る、ということとなるわけです。
また、株券がなければ、株式を譲渡することもできません(商法205条1項)し、株主名簿に株主であるという記載がなされていないときは、配当を貰ったり、株主総会に参加できない、という不利益をも受けてしまいます。
では、株券を喪失したとき、どうすればよいのでしょうか。

従来は、喪失した者は、簡易裁判所に対し、公示催告手続きという申し立てを行い、さらに除権判決という判決をもらって、会社に対し株券の再発行を請求する、という手続きをとるものとされていました。
しかし、平成14年の商法改正でこの公示催告手続き・除権判決という手続きのかわりに、会社に対し、株券を喪失したのでその旨の登録をして欲しい、という申請をし、登録後1年経過後に株券の再発行をしてもらうことができる、という手続きにかわりました。株券喪失登録制度と呼ばれるものです。平成15年4月1日から施行されています。以下、この制度の概略をご説明したいと思いますが、その前に、従来の制度のどこに欠点があったのかをお話しましょう。

第1に、喪失した者の立場からしますと、せっかく公示催告手続き・除権判決という手間のかかる手続きをとったとしても、その間に善意取得者が現われた場合、善意取得者の方が勝ってしまうと解されていますので、喪失主は、何のために公示催告手続きをとったのか、という不満が残ることとなります。とりわけ、落とし主は、従来の制度のもとでは2度官報公告という手続きをとる必要があり、経費の無駄が顕著だったのです。
第2に、善意取得者の立場からしますと、先に述べたとおり公示催告期間までに善意取得していれば、その者が権利者として認められるわけですが、公示催告期間中に裁判所に権利の届出をしないまま除権判決がなされると、当該株券は無効となりますので、善意取得者の株券は紙切れとなってしまいます。そこで、改めて会社に株券の交付を求めなくてはならないということとなります。しかも、除権判決により、公示催告を申し立てた者に新株券が交付されていれば、いっそう混乱した状況となってしまいます。
第3に、会社としては、公示催告期間中に株券の提示がなされ名義書換や権利行使されれば、公示催告期間中であるということを理由にこれを拒むことはできない、という問題がありました。

このたび創設された株券喪失登録制度の概要は次のとおりです。

株券喪失者は、2度の官報掲載費用の負担をしないでよくなり、手続きも簡素化しました。
しかし、株券喪失登録期間中において善意取得は生じ得るものと解されます。
したがって、手続き中、善意取得は阻止し得ないという点では旧制度と同様ですが、株券喪失者は、会社の株主名簿上の名義人、株券提出者に対する通知義務と株券所持人の登録異議申請を通じ、従来よりも株券所持人の有無を確認することが容易になりました。
また、従来と異なり、株券喪失登録が効力を有する期間の株主名簿名義書換及び権利行使が停止されるため、株券喪失登録者が真実の権利者である場合の権利回復は容易になったといえます。
さらに、株券を取得しようとする者は、株券喪失登録簿により確認することができますので、従来よりもずっと取引の安全が図られることとなります。
株券所持人はまた、株券喪失登録にかかる通知とそれに対する登録異議申請により容易に株券の失効手続きの進行を阻止することができるようになりました。
制度ができたばかりですので、株券を紛失した方も、当該会社の担当者も、どのようにしたらよいか、わからない向きが多いかもしれません。そのような場合、弁護士に相談されることをお勧めします。