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支払督促の有効活用法

1 始めに

強制執行を行うためには、訴訟で判決を得なければならないのが原則ですが、訴訟にはある程度の費用もかかるし、一定の時間も必要です。そこで、訴訟に比べて簡易な手続で迅速に執行をすることができる支払督促制度の概要を説明したうえで、どのような場合にこの制度を利用したほうがよいのかを見てみましょう。

支払督促の有効活用法

2 支払督促手続の概要

  1. 申立てから送達まで 支払督促の申立ては、取引先の住所地の簡易裁判所書記官に対して行います(民事訴訟法383条)。支払督促の申立てをうけた裁判所書記官は、申立書類を審査し、形式的な要件に不備がなければ支払督促の正本を相手方に対し、送達します(同382条)。支払督促は相手方である債務者の意見を聞かずに形式面さえ満たしていれば、発布されることになります。
  2. 仮執行宣言 支払督促が相手方に送達されてから2週間が経過してもこの支払督促に対し債務者から異議(支払督促の内容に対しての反論)の申し立てがない場合には、債権者は簡易裁判所に対して仮執行宣言の申立てをすることができます(同391条1項)。仮執行宣言の要件を満たせば、仮執行宣言付支払督促が出て、相手方に送達されます(同条2項)。この送達により、晴れて相手方の財産に強制執行を行うことができるようになります。
    なお、支払督促の送達から2週間を経過して仮執行の宣言を申し立てることができるようになったにもかかわらず、30日以内に仮執行宣言の申立てをしなければ、支払督促自体がその効力を失うことになりますので、注意してください(同392条)。
  3. 支払督促の確定 仮執行の宣言のついた支払督促の送達をうけた日から2週間を経過したにもかかわらず、債務者が督促異議を申し立てないときは、支払督促は確定判決と同一の効力を有するようになります(同393条、396条)。

3 通常訴訟と比較した場合の支払督促の利点

  1. 申立てが簡単である
     支払督促申立書は通常、所定の書式(雛形)に金額、日付等を当てはめるだけで完成させることができるので、専門的な知識がなくとも容易に作成が可能です。
  2. 印紙代が安い
     訴状には、訴額(請求金額)に応じた印紙を貼らなければなりませんが、支払督促では訴訟の場合の2分の1の印紙を貼ればすみます。例えば、100万円の支払いを求める場合、訴訟なら1万円のところ、支払督促では5000円しかかかりません。
  3. 早期の執行が可能
     債務者が異議を申し立てない場合、最短であれば支払督促送達後1ヶ月程度で執行まで終了することができますので、早期の債権回収が可能であるといえます。
  4. 心理的効果
     支払督促も裁判所から送られてくる文書ですから、単に債権者が送付する内容証明とは債務者の心理に与える影響も違ってきます。それまでの交渉では全く支払いに応じなかった債務者が支払督促の送達を受けて、支払いに応じるよう対応を変えてくることも多くあります。

4 支払督促のデメリット

  1. 管轄
     支払督促の申立ては、債務者の住所地等において行わなければなりません。通常訴訟においても、原則は被告(相手方)の住所地で訴訟を提起することになりますが、原告の住所地などで訴訟を提起することができる例外(義務履行地などの特別裁判籍)が多く定められています。
  2. 督促異議による通常訴訟への移行
     支払督促に対し、債務者は異議を申し立てることができます。債務者から異議申立書が提出されれば、異議の内容にかかわらず(例えば、「支払うお金はありません。」という内容でもいいのです。)、通常訴訟に移行します。この場合、訴訟は、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所もしくはその所在地を管轄する地方裁判所で行われることになります(同395条)。
     この場合、支払督促と訴訟の場合の印紙代の差額を裁判所に収めたうえ、準備書面を提出して、支払督促申立書を補正しなければなりません(このとき提出する準備書面を「訴状にかわる準備書面」といいます。)。
     支払督促に対する異議の申立てがあった場合、訴状にかわる準備書面の提出などの期間を経て、第1回の期日が指定されることになりますので、支払督促申立てから第1回期日までに、2ヶ月以上の期間がかかることも珍しくありません。この点、通常の訴訟の場合におおむね訴状提出から1ヶ月半ほど先の期日が指定されていることを考えるとかえって時間を要する結果になる場合もありえます。

5 まとめ~どのような場合に支払督促を選択すべきなのか?

では、訴訟よりも支払督促を利用したほうがいいのは、どのような場合でしょうか。

まず、相手方が必ず反論を出してくるような事案においては支払督促を申し立てることはお勧めできません。督促異議を申し立てられて、通常訴訟に移行するくらいであれば最初から、訴訟を提起したほうが時間的にも早いからです。

これに対し、具体的な反論はないにもかかわらず、資金不足や怠慢により債務の弁済をしない場合には、異議申し立てがなされない可能性も十分にあり、支払督促を利用してみる価値があるといえるでしょう。但し、債務者の住所が遠隔地の場合には、異議が出されて債務者の住所地を管轄する裁判所で訴訟追行しなければならなくなる可能性も考慮に入れて、支払督促を選択するかどうかを決断する必要があります。

なお、債務者の資金不足が明らかであり、回収が不可能なので、会計上、貸し倒れとして処理したい場合などには支払督促はとても便利です。債務者にも事前に話を通したうえで、支払督促を申し立て、強制執行の手続をとり、執行不能となれば、確実に貸し倒れとしても処理することができます。支払督促の利点が生きてくる場面といえるでしょう。

H18.04掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。