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中小企業の法律相談

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どうする?従業員の副業

1 「週末起業」ブーム?

近ごろの賃金水準ダウンの世相を反映し、サラリーマンによる副業(兼業)が増えていると聞きます。会社に黙って密かにアルバイトをするという古典的な副業に加え、最近はパソコンやインターネットによる在宅ワークが容易となったこともあって、これらを利用して自ら起業するサラリーマンもいるようです。「週末起業」などという言葉も耳にするようになりました。

わが国の労働法では、従業員の兼業に関する規定は特にありません。法律で兼業が禁止されている公務員とは異なり、私企業における従業員の兼業は禁止されていないのです。

しかし、就業規則によって従業員の兼業を禁止し、許可がない限り兼業してはならないとしている会社が多いと思います。このような企業において、従業員の無断兼業が発覚した場合、どのような対応をとればいいのでしょうか。

どうする?従業員の副業

2 兼業(副業)に対して懲戒できるか

裁判例は、従業員が就業時間以外の時間をどのように過ごすかは従業員の自由に委ねられているのが原則であり、就業規則で兼業を全面的に禁止することは不合理であるとの前提に立っています。

このため、就業規則における兼業禁止規定は、それ自体が直ちに無効となるものではないものの、就業規則によって禁止される兼業は、会社の企業秩序を乱し、労働者による労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られるという判断が一般的です。

例えば、勤務時間中に副業をしていたり、勤務時間外であっても会社の備品を消費して副業しているような場合には、企業秩序を乱すものと評価されるでしょう。競合会社の取締役へ就任したような場合、会社の企業機密を漏らすような場合も同様です。また、裁判例では、勤務時間終了後に深夜零時までキャバレーの会計係を兼業していた従業員に対する普通解雇のケースで、軽労働とはいえ会社への労務提供に支障を来たす程度の長時間の兼業であるとして、普通解雇が解雇権の濫用とはいえないと判断したものもあります。

他方、会社の職場秩序に影響せず、かつ、会社に対する労務の提供に大きな障害にならない程度・態様の兼業は就業規則によっても禁止できないことになるでしょう。例えば、勤務時間外に短時間のアルバイトをする程度で、会社の企業機密やノウハウをそのまま利用したり競業会社に利益を与えたりするようなことがなければ、業務上の具体的な支障がないものとして、兼業禁止規定に抵触しないと判断されることが多いと思われます。裁判例では、タクシー運転手が就業時間後、1ヶ月に7,8回ほど輸出車移送のアルバイトをしていたというケースで、就業規則上禁止される兼業には該当するものの、これを理由とする普通解雇は解雇権の濫用であると判断したものがあります。ほかには、私立学校の専任講師が喫茶店経営をしていたことを理由とする懲戒解雇・普通解雇がいずれも就業規則の解雇事由に該当せず、また解雇権の濫用にあたるとして解雇を無効とした裁判例があります。

このように、従業員による兼業が発覚した場合、就業規則で禁止されているからといって直ちに懲戒できるわけではなく、兼業が及ぼす企業秩序への影響、労務提供への支障などの点について綿密に検討し、懲戒の可否を慎重に判断する必要があります。

3 兼業の黙認からコントロールへ

多くの会社において、就業規則上は禁止されている従業員の兼業。しかし、発覚しても、懲戒の対象となる範囲はごく限られているため、従業員の兼業が黙認される傾向にあります。

このような兼業の黙認は、組織管理の点から望ましくありませんし、兼業にあたっての従業員の遵守事項を徹底して周知させることができず、かえって企業機密の管理が困難となります。ところが、兼業の黙認をやめるとすれば、兼業を公認するしかありません。

平成20年3月に施行された労働契約法へ実際に盛り込むことは見送られましたが、立法にあたっては、就業規則における兼業を禁止する規定を無効とすべきではないかとの議論もなされました。時代の流れは、「兼業の全面禁止」から、「兼業の公認とそのコントロール」へと変化しているようです。

具体的には、例えば兼業を届出制とし、他方で兼業として許されない業務を具体的に定めることが有効です。あるいは、兼業にあたって必ず遵守すべき事項を明示し、これを遵守することを条件に兼業を原則として許可するのもいいでしょう。兼業を届け出た者には、営業秘密を害する行為をしないという誓約書を書かせ、これに違反する行為が不正競争防止法の定める刑事罰の対象となりうることや、在職中の従業員が競業避止義務を負っていることを十分に理解させる必要もあるでしょう。

従業員が兼業するのは、もちろん賃金の問題もありますが、最近では、将来に向けて自らのキャリアを充実させたいという考えが発端となる場合があるようです。ということは、会社にとっても、兼業を許すことで多様な人材が育つというメリットがあるわけです。やみくもに兼業を禁止するのではなく、柔軟に対応し、かつ、絶対に遵守すべき事項をはっきりさせるという対応が求められる時代といえます。