中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

ファイナンス・リースにおける物件の瑕疵

ファイナンス・リースの特徴

日本では、多くの中小企業が、コンピュータやソフトウェア、工作機械等を導入するに際し、リース契約を利用しています。その多くはいわゆる「ファイナンス・リース」です。

ファイナンス=金融という言葉が使われていることからもわかるように、企業が導入したい設備の購入資金を借り受けし、その代償として、リース会社にリース料を支払うという契約形態となっており、賃貸借契約のかたちをとりつつも、金融的な性格が極めて強い契約といえます。このため、一般的には、ユーザーである企業自身が自ら必要な設備を選択し、その選択段階でメーカーや販売会社(サプライヤー)と交渉して機種や価格を決定していき、その後に、資金調達の方法として、リース会社とリース契約を締結するという流れでリースが導入されているようです。つまり、リース会社は、動産担保融資の形で、設備投資の資金調達の役目を果たしているわけです。

ファイナンス・リースにおける物件の瑕疵

瑕疵担保免責特約

このファイナンス・リースでは、a)リース会社が瑕疵担保責任を負わないこと、b)ユーザーは物件の瑕疵を理由にリース料の支払を拒むことはできず、また中途解約権もないこと、が定められるのが通常です。いわゆる「瑕疵担保責任免責特約」です。

ファイナンス・リースが賃貸借契約の一種であることを考えると、借主が貸主に対して瑕疵担保責任を追及できないのはおかしいようにも思えますが、特段の事情のない限り、このような瑕疵担保責任免責特約は有効であると解されています。その理由としては、【1】物件はユーザーが自ら選択したものであって、リース会社は物件の選定や引き渡しに関与していないこと、【2】リース会社は瑕疵に対処する能力がないということ、【3】ファイナンス・リースの金融的側面を考えれば、リース会社のリース料回収は実質的には融資の回収にすぎないこと、【4】商人間の売買であれば、消費者保護の要請がはたらかないことなどが指摘されています。つまり、ファイナンス・リースにおいては、物件の使用とリース料は対価関係に立たないと理解されているのです。

裁判例においても、リース物件であるコンピュータのプログラムに瑕疵が認められる場合であっても、リース契約には瑕疵担保責任免除の特約がある以上、コンピュータ一式を受領したとの借受証をユーザーがリース会社に差入れ、リース会社がサプライヤーに代金支払いを完了している等の事実があるときは、ユーザーはリース物件の解除をすることができないとしたものがあります。

サプライヤーへの直接請求

では、リース物件に瑕疵が見つかった場合、ユーザーはどうすればよいのでしょうか。

通常、ファイナンス・リース契約では、ユーザーの請求があれば、リース会社がサプライヤーに対して有する瑕疵担保責任に基づく請求権をユーザーに譲渡する旨が定められています。したがって、ユーザーは、サプライヤーに対する請求権をリース会社から譲り受け、これを行使して、物件の補修や損害賠償等をサプライヤーに対して直接求めていくこととなります。しかし、サプライヤーが倒産しているなどの場合には、請求権を譲り受けてもあまり意味がないということがあるかもしれません。

リース会社が瑕疵担保責任を負う場合

次に、瑕疵担保免責特約が有効とならない「特段の事情」がある場合には、この特約が信義則上無効となるケースがありうるものと考えられます。

どのような場合に特段の事情が認められる可能性があるかというと、瑕疵担保免責特約を有効と解される根拠として先ほど挙げた【1】~【4】の前提が欠けている場合です。

例えば、サプライヤーが予めリース会社と業務提携をしているいわゆる提携リースでは、サプライヤーがリース契約の説明から契約締結までを代行しているような契約形態をとることがありますが、このような場合、両者の間には経済的一体性が認められ、リース会社がリース物件の選定や引き渡し等にまったく関与しないという前述したファイナンス・リースの特徴が欠けていることがあります。したがって、このような場合には、ユーザーがリース会社に対して瑕疵担保責任を追及できたり、リース料の支払いを拒める場面がありうると考えられます。

裁判例では、ファイナンス・リース契約における瑕疵担保責任免責特約を原則として有効としつつ、リース会社とサプライヤーが同一メーカーの系列会社であって、必ずしもリース会社に瑕疵修補能力がないとはいえないことを理由に、瑕疵の程度が重大で修補しなければ契約の目的を達しえない場合には、免責特約の効力は及ばないとしたものがあります(福岡地裁平成元年1月9日判決。もっとも、この事案では瑕疵が重大でないとして免責特約の効力が及ぶと判断されました)。

ほかにも、リース会社が瑕疵の存在を知っていてユーザーに告げなかったような場合や、ユーザーが事業者ではなく消費者であるような場合には、瑕疵担保責任免責特約の有効性に疑いが生じます。

もし、リース物件に瑕疵が見つかった場合は、まずはリース契約書の条項をよく確認し、リース会社の瑕疵担保責任免責特約があるかどうかをきちんと把握することが大切です。もし、このような特約がある場合には、そのリース契約に一般的なファイナンス・リースと異なる特徴がなかったかをよく思い出し、そのうえで、サプライヤーやリース会社との話し合いに臨むべきでしょう。

H21.06掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。