中小企業の法律相談

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職場内のいじめと会社の責任

最近、テレビドラマ等でも職場内のいじめが取り上げられているようです。ドラマの中では、主人公が些細なことをきっかけにしていじめを受け始めるところから、自身の努力や周りの人たちの支えを受けつつ、いじめと闘い、乗り越えていくまでの姿が描かれていく・・・といったところでしょうが、現実は必ずしもそういった筋書きばかりではありません。

同僚、先輩社員、上司からいじめを受けた結果、いじめの被害者である社員が退社に追い込まれてしまうというケースは決して珍しくありませんし、被害者が、メンタルの病気に罹ってしまうケースも多いと聞きます。

こういったケースにおいては、被害者が、いじめの加害者の法的な責任(不法行為責任)を追及するだけでなく、いじめを見過ごした、あるいは、いじめの事実を把握していたにも拘わらず十分な対応をしてくれなかったとして会社の責任を追及するケースも珍しくありません。

では、職場内でいじめ問題が起こった場合に、会社はどのような法的責任を負うのでしょうか。そして、会社は常に法的責任を負うことになるのでしょうか。

そこで,今回は,職場内でいじめ問題が発生した場合に想定される疑問点について考えてみたいと思います。

職場内のいじめと会社の責任

【疑問点1】法的責任の対象となるいじめとは?

職場内のいじめと一言で言っても、セクハラ、パワハラから、近年注目され始めたモラハラ(モラルハラスメント)まで様々な形態がありますが、いわゆる職場内のいじめとして捉えられているパワハラやモラハラに関する紛争は、近年増加傾向にあると言われています。

では、こういったパワハラやモラハラは、どういった場合に、違法なハラスメント行為として、法的責任の対象となるのでしょうか。

この点、裁判例によれば、ハラスメント行為の違法性は、被害者の主観的な感情を基準にするのではなく、被害者と加害者の職務上の地位・関係や、行為の場所・時間・態様、被害者の対応等の諸般の事情を考慮して、行為が社会通念上許容される限度を超え、あるいは、社会的相当性を超えると判断されるときに認められるとされており、その場合に不法行為が成立することになります。

ただし、「社会通念」や「社会的相当性」という概念自体が元々抽象的な概念であること等もあり、上記基準は、必ずしも明確ではなく、実際の事案においても、類似の事案で裁判所毎に判断が分かれるようなケースもあるようです。

【疑問点2】いじめ問題について、会社はどのような責任を負うのか?

では、疑問点[1]で述べた基準に照らし、加害者である社員に不法行為が成立する場合、会社はどのような法的責任を負うのでしょうか。

会社が問われる可能性のある責任としては、以下の3つが考えられます。

  1. 会社として、良好な職場環境を整備し、配慮する義務を怠った、あるいは、いじめ問題発覚後に適切な対応をする義務や、職場環境の改善に努める義務を怠ったことを理由とする不法行為責任(民法709条等)
  2. いじめの加害者を使用する者として負う使用者責任(民法715条等)
  3. 会社が、労働契約に伴う付随義務として負っているとされる職場環境の整備義務、配慮義務、改善義務を怠ったことを理由とする債務不履行責任(民法415条等)

これら3つの責任のうち、(1)(2)は、被害者が会社に対して損害賠償を請求するというものですが、(3)は、損害賠償請求だけでなく、ケースによっては、被害者が会社に対して、職場環境を整備するよう請求したり、職場環境が整わないことを理由として就労拒否権を行使し、その期間中の賃金を請求することも出来る場合があります。

【疑問点3】いじめ問題について、会社は常に責任を負うのか?

前述した責任は、いずれも、会社が職場環境の整備義務等を怠ったために、被害者が損害を被ったとして、会社が負うものです。

そうであるとすれば、会社が職場環境の整備義務等をきちんと果たしていた、あるいは、きちんと果たしていたとしてもいじめは防げなかった(職務とは全く無関係のいじめのケース等)といった場合であれば、会社は責任を負わないと考えられます。

【疑問点4】いじめ問題について、会社はどのような対応をすべきか?

職場内のいじめ問題に対する対応を誤れば、会社としての責任を追及されるリスクがあります。

そこで、会社としては、常日頃から、パワハラ等に関する社員研修を実施する等していじめに対する社員の意識を高める、あるいは、社内に相談窓口を設置する等の措置を講じることが望ましいと言えます。

これが、職場環境整備義務や、配慮義務を果たすことに繋がります。

また、いじめ問題が発生した場合には、いじめの兆候を捉えた時点で、まず、被害者と目される社員から事情を聴く。その聴き取り内容からいじめの存在がある程度確認できれば、周辺の社員に対する聴き取り等の調査を行う。そして、周辺調査の結果、いじめの事実が真実らしいということであれば、加害者と目される社員から直接事情を聴く、といった段階を踏むことが望ましいと思われます。

その際に注意すべきことは、被害者が加害者による報復などの被害に遭わないよう、十分に配慮することですし、加害者と目される社員に対しても、加害者であることを決めつけたような姿勢で事情を聴くことは避けるという点です。

そして、いじめの事実が確認できた場合には、加害者に一時的な配転や自宅待機命令を出す等して、いじめが出来ない状態を作った上で、懲戒処分等の措置を検討すべきです。

このことが、職場環境改善義務を果たすことに繋がるものと考えられます。

最後に

いじめ問題には、会社としての責任を問われるリスクだけでなく、職場の雰囲気が悪くなり社員の士気が下がるといったリスクもあります。

そうしたリスクを避けるためにも、会社としては、未然にいじめを防ぐための環境整備に努めたいものです。

H22.05掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。