中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

進んでいますか?暴力団排除条項の導入

1.暴力団排除条項をめぐる今日の状況

今日、企業倫理として、暴力団をはじめとする反社会的勢力との関係を断絶することが強く求められています。反社会的勢力に屈することなく法律に則して対応することや、反社会的勢力に対して資金提供を行わないことが、今日のコンプライアンスそのものであるといっても過言ではありません。

進んでいますか?暴力団排除条項の導入

平成19年6月19日「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(以下「政府指針」といいます)が公表され、反社会的勢力を社会から排除していくことが企業の社会的責任の観点から必要かつ重要なことであることが確認されました。そして、政府指針においては、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則の一つとして、「取引を含めた一切の関係遮断」が掲げられ、各企業に契約書や取引約款へ暴力団排除条項(以下「暴排条項」といいます)を導入することが求められています。そして、政府指針は、暴排条項の効果について、「契約自由の原則が妥当する私人間の取引において、契約書や契約約款の中に、 【1】暴力団を始めとする反社会的勢力が、当該取引の相手方となることを拒絶する旨や、【2】当該取引が開始された後に、相手方が暴力団を始めとする反社会的勢力であると判明した場合や相手方が不当要求を行った場合に、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨を盛り込んでおくことが有効である」としています。

これを受けて、金融庁の監督指針などで「反社会的勢力による被害の防止」に関連する改正がなされるなど、各業界で暴排条項の導入が進められており、行政も、福岡県で平成22年4月1日に全国初の暴力団排除条例が施行されたのを皮切りに、平成23年10月には、全都道府県で、暴力団排除条例が施行されるに至りました。そして、平成23年12月には警察庁の「暴力団排除等のための部外への情報提供について」と題する通達が発出され、暴力団関連情報が提供される範囲が拡大されるなど、暴排条項の導入及びその効果をより実行的にするための諸対策が進められてきています。

2.暴力団排除条項の必要性

今や、各企業において、契約や取引約款に暴排条項を導入することは必須といえますが、暴排条項を導入することによって、どのような効果が期待できるのでしょうか。

まず、暴排条項の導入による効果としては、当該企業が反社会的勢力との取引を拒絶することを宣言することにより、反社会的勢力との接触を未然に防ぐ予防的効果や抑止的効果が挙げられます。そして、万一、反社会的勢力と知らずに取引を開始してしまった場合にも、暴排条項を導入しておけば、当該条項に違反することが取引を解消するにあたっての信頼関係破壊の理由や解除の正当事由となるため、相手方から取引解消の効力を争う余地を奪うという裁判規範としての効果も期待できます。

では、暴排条項を導入していない場合、相手方との取引の解消は、できないのでしょうか。その場合でも、解除条項における包括規定(解除事由を列挙した後の包括的な解除条項)、継続的契約における信頼関係破壊法理、錯誤無効、詐欺取消などの理論構成を駆使することにより取引を解消することが考えられます。しかし、政府指針が指摘するとおり、私人間の取引においては、契約自由の原則が妥当するため、解消はそれほど簡単ではありません。

では、これから暴排条項を導入する場合、既存の取引に遡って暴排条項を適用させることができるでしょうか。この点、相手方の同意がない限り、既存の契約の内容を変更できないのが民法上の原則ですので、既存の取引に適用させようとする場合には、相手方から個別に同意を得るのが原則となります。しかしながら当然、相手方から個別に個別の同意を得るのが困難な場合もあります。

その場合でも、既存の取引に変更条項(相手方の同意なしに一方的に契約の内容を変更できる条項)がある場合には、一方的に既存の取引に適用させることも可能であると考えます。変更条項は、相手方に一方的に不利な条項であるため、一般的に、条項どおりの効力が認められるとは限りませんが、今日の暴排条項をめぐる状況からすれば、変更条項を用いた暴排条項の遡及適用については、十分に合理性が認められると考えられるからです。

もし、相手方から個別の同意が得られず、既存の取引に変更条項も存在しない場合には、残念ながら、既存の取引に暴排条項を適用することはできません。しかし、その場合でも、新たな取引の機会がある場合は、必ず暴排条項を導入し、少なくとも今後の取引については、確実に取引を解消できるようにすべきです。

3.暴力団排除条項の具体例

暴排条項のエッセンスは、政府指針のとおり、「【1】暴力団を始めとする反社会的勢力が、当該取引の相手方となることを拒絶する旨や、【2】当該取引が開始された後に、相手方が暴力団を始めとする反社会的勢力であると判明した場合や相手方が不当要求を行った場合に、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨」を定めることですが、暴排条項の具体例としては、暴排条項の導入が進んでいる金融取引の例、具体的には全国銀行協会が公表している条項例などが参考になります。

まず、相手方に、相手方が現在暴力団等でないこと、そして、将来暴力団等に該当しないことを表明保証させます。ここで、「暴力団等」をどのように定義するかによって、暴排条項の適用範囲が決まってきますが、現在は、「暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者」とかなり広く定義するのが一般的です。そして、単に相手方が暴力団等に該当しないことだけでなく、一定の反社会的な行為をしないこと、つまり、「【1】暴力的な要求行為【2】法的な責任を超えた不当な要求行為、【3】取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為、【4】風説を流布し、偽計を用いまたは威力を用いて信用を棄損し、または業務を妨害する行為、【5】その他前各号に準ずる行為」を行わないことなども確約させます。

そして、これらに違反した場合、契約を解除できることと、その場合に、相手方に一切損害賠償をしないことを定めます。

各種団体から暴排条項の例が公表されていますので、これから暴排条項を導入する場合には、それらを参考に、一日も早く、自社の取引に合った暴排条項の導入を進めてください。

H24.7掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。