中小企業の法律相談

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未払賃金立替払制度

はじめに

会社が倒産した、しかし、「給料の未払がある」あるいは「退職金を貰っていない」ということがあります。こうした場合、全額ではありませんが、未払賃金や退職金の立替を受けられる制度(未払賃金立替払制度)があります。今回はこの制度のお話しをしましょう。

未払賃金立替払制度

どのような場合に立替払を受けられるか

設立後1年以内の会社はダメ

まず、事業主側の要件についてお話しします。

事業主の要件は、「事業主が、同居の親族以外の労働者を使用して、1年以上の期間にわたって当該事業を行なっていたこと」です。

したがって、事業主は、「会社」である必要はなく、「個人」でもよいし、「非営利事業を営む団体」でも構いません。

ただ、従業員が「同居の親族のみ」であったりすると、適用はありません。

また、「1年以上の期間にわたって事業」を行なっていたことが必要です。設立間もない会社に就職したところ、1年もしないうちに倒産した、という場合には、未払の賃金があっても立替払を受けられませんので、注意してください。もっとも、法人になって1年未満だが、法人化する前の事業期間を通算すると1年以上となる場合は、大丈夫です。

次に、事業主が、法的手続を取り、裁判所で「破産」「民事再生」「特別清算」「会社整理」の開始がなされたことが必要です。法的手続を取っていない場合には労働基準監督署長から認定されることが必要となります。

6カ月以上前に退職した場合はダメ

労働者側の要件についてですが、労働者は、「法的手続の申立があった日又は労働基準監督署長の認定申請より6カ月前の日以降2年間に退職したこと」であることが必要です。

したがって、例えば、法的手続申立の6カ月以上前に退職していた場合は、立て替えて貰えません。

また、破産手続開始決定日(または「事実上の倒産」の認定日)等の翌日から2年以内に立替請求をすることが必要ですので、この点も注意してください。

どの範囲で立て替えてもらえるのか
  1. 立て替えて貰える賃金等は、定期給与と退職金です。したがって、賞与や解雇予告手当は含まれません。社内預金も含まれません。
  2. 金額については制限があります。
     まず、未払賃金等が2万円未満の場合は、立て替えてもらえません。
    次に、立替払額は未払賃金総額の8割です。
    また、上限があります。基準退職日の年齢によって違いがあり、45歳以上は296万円、30歳以上45歳未満は176万円、30歳未満は88万円が上限です。
立替請求の手続はどのようなものか
  1. 未払賃金の立替払請求書が必要ですが、これはインターネットでダウンロードできます。所定欄に住所氏名、立替払請求金額、振込先の銀行口座(本人名義の普通預金口座に限られます)、勤務期間等を記載することになります。
  2. これに、破産管財人等に証明書を発行してもらうことが必要となります。破産管財人は、破産申立書、裁判所の決定書、商業登記簿謄本、賃金台帳、就業規則(賃金規程)、未払賃金計算書、退職金規程、未払退職金計算書等を添付して、証明書を発行します。
  3. 提出先は、独立行政法人労働者健康福祉機構(以下「機構」といいます。)理事長宛てとなります。
審査はどのように行なわれるか

機構はかなり厳格な審査をしています。というのは、公的資金による支払であるからというのはもちろんですが、近時、暴力団関係者による詐欺請求や、不正受給が多数発生しているという事情があるからです。例えば、全く関係のないほかの会社退職金規程や市販されているモデル退職金規程を、当該破産会社等の退職金規程であると偽って、退職金を請求したり、本当は従業員として勤務していない者を従業員であったと偽って未払賃金を請求したりする例があるのです。

そこで、証明内容を確認するための資料として、例えば、賃金台帳、出勤記録、タイムカード、給与規程、退職金支給規程等の提出を求め、未払が長期高額になるものや労働者性に疑問があるものについては、さらに詳しい照会を破産管財人等に求めたりしています。破産管財人はこれを受け、当該破産会社や元従業員にヒアリングをしたり、資料の提出を求めることとなります。従業員側からすると、どうしてそのような資料が必要なのだ、と不満に思われることがあるかもしれませんが、前記のような事情のあることを理解して欲しいと思います。

請求から支払までの期間

機構が請求を受け付けてから支払までの期間は、平均で約40日間です。疑義照会や補正を要しない事案では1か月以内で支払われているようです。全体の4割が、機構から照会がなされているとのことです。

書類の不備があれば、その追完がなされるまで支払がなされません。不備の例として、例えば、退職した年に、ほかから退職所得を得ている場合、つまり、破産会社から退職金の一部が支払われている場合、中小企業退職金共済や生命保険会社等の車外積立から退職金の一部が支払われている場合は、税務署備え付けの書式の「退職所得受給に関する申告書・退職所得申告書」及び退職所得等の支払者が交付した「退職所得の源泉徴収票(特別徴収票)」の添付が必要となります。スムーズに支払を受けるためには、これら必要書類を速やかに入手し準備しておくことが必要となります。

H25.7掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。