中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

新型コロナウイルスに負けない労務管理

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大は、企業に対して様々な難題を投げかけていますが、特に雇用関係についてはご質問やご相談を受けることが多いです。そこで、今回は、雇用関係、特に休業に関する問題についてお話ししたいと思います。

新型コロナウイルスに負けない労務管理

従業員の中から発熱者が出た!どうする?

  1. 出勤停止(休業)を命じるべきか
     従業員が新型コロナウイルスに感染していることが確定している場合や、濃厚接触者であることが明らかな場合は、直ちに出勤停止を命じるべきです。
     悩ましいのは、上記のいずれにも当たらず、単に発熱等の風邪症状がみられるような場合ですが、昨今の感染拡大を踏まえれば、発熱が数日続いている時点で新型コロナウイルス感染の可能性が高いと考え、出勤停止を命じるべきではないかと思います。
  2. 出勤停止(休業)を命じた場合に休業手当を支払う義務を負うか
     「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければいけません(労働基準法第26条)。
     不可抗力による場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たりませんが、不可抗力による休業と言えるためには、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす必要があります。
    1. 例えば、現にその従業員が新型コロナウィルスへの感染が確定している場合や、確定していなくても高熱のため動けないような場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当せず、休業手当を支払う必要はないと考えます。
    2. 一方、新型コロナウィルスへの感染が確定しておらず(濃厚接触者を含む)、事実上、労務提供が可能であっても、37.5度以上の発熱が4日以上続いていたり、強い倦怠感や呼吸困難の症状が見られる等、帰国者・接触者相談センターへの相談が推奨されるような状態にある場合は、新型コロナウィルスへの感染が合理的に疑われますから、職務の継続は不可能というべきです。その場合も、原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当せず、会社は休業手当の支払義務を負わないと考えるべきです。

緊急事態宣言や要請を受けて休業する場合、休業手当を支払わないといけないの?

4月7日に発令された緊急事態宣言を受けて休業する会社も多いと思われます。
以下、現時点(令和2年4月14日現在)で示された政府の方針及び労働基準法の論点をもとに整理してみたいと思います。

  1. 休業要請を受けている場合
     都道府県知事による休業要請(同法24条9項)には法的な強制力はありませんが、実際上、休業要請を無視して営業すれば、会社は厳しい非難に晒され、信用やイメージは棄損されることは容易に想像できます。したがって、休業要請を受けた時点で営業継続は事実上不可能ですから、事業の外部において発生した事業運営を困難にする要因があると言えます(①)。
     問題は、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言えるかどうかです(②)。
     この点、具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、『自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか』『労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか』といった事情から判断されると考えられます(厚労省HP「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」、4、問7参照)。
     この辺りはケース毎に個別に判断するほかありませんが、使用者としての努力を最大限尽くしているといえる場合も多いと思われます。その場合は休業手当の支払義務は負いません。
  2. 休業要請を受けていない場合
     営業継続を要請されている訳でもなく、自粛を要請されているという訳でもない。
    こういった場合が一番悩ましいです。
     休業要請を受けていないとすれば、休業は会社の自主的判断になりますので、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるという考え方も十分あり得ます。
     しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく8割程度の社会的接触の減少が求められ、企業に対して出勤者を最低でも7割減らすことが求められている非常事態下においては、休業は感染拡大を防ぐ最良の選択肢です。特にテレワーク等による事業継続が困難な業種においては、7割出勤者を減らせば事業継続は不可能という場合も多いと思われます。

 とすれば、たとえ休業要請を受けていないとしても、事業の外部において発生した事業運営を困難にする要因があると言えるのではないかと考えます(①)(私見です)。

 そうなると、あとは、休業要請を受けている場合同様、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言えれば(②)、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず、休業手当の支払義務はないということになります。

会社として従業員の生活を守るために出来ること

 以上、ケース毎に休業手当の支払義務の有無を検討してきましたが、目の前にいる従業員やその家族のことを考えれば、支払義務の有無だけで割り切れる問題ではありません。経営者としては、休業手当の支払義務の有無にかかわらず、従業員の生活を守るために何か出来ないかを考える必要があります。

 例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大防止が強く求められる中で自主的に休業した場合、経済上の理由により事業の縮小を余儀なくされたものとして雇用調整助成金の助成対象となる可能性が高いと思われます。そこで、雇用調整助成金の受給を見込んで、労働基準法上の休業手当とは異なる独自の手当として、休業手当相当額の90%程度(中小企業の場合。大企業であれば75%)の手当を支払うといった方策を検討されてもいいように思われます。

 また、これを機に、就業規則等を改訂して、有給の特別休暇制度を導入することを検討されても良いでしょう。

 いつか必ずこの受難は終わります。そのときに再び会社と従業員が力を合わせて立ち上がれるよう、これを機に、従業員のために出来ることを最大限行いながら、互いの絆を深めていきたいものです。
※本稿はあくまでも令和2年4月14日現在の情報に基づくものです。

R02.05掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。