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契約内容不適合について~民法改正で瑕疵という用語が消える!~

瑕疵の用語が消える

施行が2020年になるとされている改正民法にはいろいろな項目の改正がありますが、今回は、契約社会においてはかなり定着した感のある「瑕疵」という用語がなくなるということをご紹介します。

瑕疵という用語が消える

瑕疵とは何か

改正前の民法570条は、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは」、買主に損害賠償請求や契約解除ができるということを規定しており、改正前の民法634条は、「仕事の目的物に瑕疵があるときは・・」として請負人の担保責任を規定しており、瑕疵という用語が使われています。

しかし、この「瑕疵」という言葉は、あまり社会において一般的に使われる用語ではありません。瑕疵を辞書で調べると「きず、欠陥」とありますが、「きずや欠陥というわけではないが、契約で予定されていたレベルの品質ではない」ということもあり、そのような場合は「瑕疵」といえないのかという疑問もありました。

また、民法570条の「隠れた」瑕疵というのも、改めて読むと何とも微妙な表現です。買主が「瑕疵」を認識して、売買代金に反映させるなどしている場合は、買主を保護する必要はないので、売主に瑕疵に対する責任を負わせないという意味合いなのですが、「隠れた」というと「表面には見えない」といった意味で捉えてしまうかもしれません。

このように「瑕疵」という用語は、かなり契約社会には浸透していたとはいえるのですが、用語としては適切ではないと認識されるようになりました。

契約内容不適合

そこで、改正民法では「瑕疵」の用語をやめて、「契約の内容に適合しない」と表現することとしました。また、「隠れた」というのも、当事者の認識に関わるもので、結局契約の内容に結びつくことなので、隠れたという要件もなくなりました。

そして、契約内容不適合における「契約の内容」とは、合意の内容や契約書の記載内容だけではなく、契約の性質(有償か無償かを含む)、当事者が契約をした目的、契約締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情に基づき、取引通念を考慮して評価判断されるといわれております。

これは実は改正前の「瑕疵」について裁判所が判断していたことと同様であって、瑕疵から契約内容不適合に変わるからといって、新しい判断基準となるというわけではありません。しかし、「契約内容不適合」という用語から前記の判断基準は理解しやすくなったとはいえるでしょう。

また、改正民法では、契約内容不適合の有無の判断時期を引渡時としました。改正前の民法下では瑕疵の有無の判断時期は契約時と解釈されていたのですが、改正民法ではそれを遅らせて引渡時ということにしたものです。

契約内容不適合の場合の買主の救済方法

改正前の民法の瑕疵担保責任の内容は、条文上は損害賠償請求と契約解除に限られていましたが、改正民法では次のような方法が買主の選択によって取れることを法律で明確に定めることとしました。

なお、目的物の種類又は品質に関する不適合の場合は、不適合を知ってから1年内に売主に通知をしなくてはならないことになっているので、注意が必要です。

  1. 追完請求権
    買主は、契約内容不適合がある場合、目的物の修理や代替物の引渡し、あるいは不足分の引渡など、契約の内容に適合するような行為を求めることができるということにしました。
    もっとも、契約内容不適合が買主の責任による場合は請求できませんし、追完が不可能な場合も請求できません。
  2. 代金減額請求権
    買主は、契約内容不適合がある場合、その不適合の程度に応じて売買代金の減額を請求できるということにしました。買主は相当な期間を定めて修補や代替物引渡などの追完の催告をして(追完が不可能なときは不要)、その期間に追完されない場合は、代金減額請求できるとしたのです。
    不適合の程度に応じた減額とはどのように算定するのかという実務的な問題はあるかもしれませんが、合理的な解決が期待できる手段といえそうです。
    なお、契約内容不適合が買主の責任による場合は請求できません。
  3. 損害賠償請求権
    契約内容不適合は、契約内容に従った債務の履行ができていないということですから、売主に責任がある場合は、買主は債務不履行に基づく損害賠償請求ができます。
    この場合、契約が履行されると信頼して支出した費用等の損害(信頼利益)だけではなく、場合によっては転売利益などの履行を前提とした損害(履行利益)も請求できることになったと解されています。
  4. 解除権
    損害賠償のところでも述べたように、契約内容不適合は、契約内容に従った債務の履行ができていないということですから、買主は相当な期間を定めて修補や代替物引渡などの追完の催告をして(追完が不可能なときは不要)、その期間に追完されない場合は、契約解除ができます。
  5. 契約書作成上の留意事項
    このように改正によって民法における表現が変わることからすると、民法改正後に相変わらず「瑕疵」という用語を使うわけにはいかず、改正後は契約書を作成する上でも「契約内容不適合」という表現を用いることになるでしょう。
    また、契約内容不適合の判断基準は、契約書の記載が全てでないとしても、契約書の記載が重要であることは言うまでもありません。契約で合意された具体的な品質や性能などはなるべく契約書あるいは契約書に添付する仕様書等に落とし込むようにすべきでしょう。
    さらに、上記の売主の救済方法やその権利行使期間は、あくまで一般的なルールとしてのものです。売買契約の当事者間で救済方法を制限したい、あるいは拡張したいということであれば、契約書できちんとした特約を定めておかなくてはなりません。

H30.05掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。