中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

契約書チェック時の留意点

はじめに

契約書を取り交わす前には、契約書を作成し、その中身をチェックする作業が必要となります。

多くの場合、契約書はなくても、口頭の合意のみで契約は成立します。しかし、契約書が存在せず、口頭の合意しか存在しない場合、合意内容に争いが生じたり、そもそも合意の存在自体に争いが生じたりしたときに、言った言わないの水掛け論としかならず、紛争解決が著しく困難となることがあります。契約書がなければ、裁判をするのが困難となることもあるのです。

そこで、合意内容を明確にし、また、合意内容を証拠化するために、契約書を作成することが重要となります。実際にトラブルが生じた場合だけではなく、契約書を作成することにより、多くのトラブルを予防することも可能となります。

しかし、せっかく契約書を取り交わしても、その中身に問題があれば、契約書を取り交わしたことは無駄になりますし、かえって有害となる場合もあります。

契約書をチェックするのは、とにかく根気のいる作業ですが、ポイントを押さえることで、チェックの際の労力のかけ方をある程度コントロールすることができます。そこで、契約書を作成・チェックする際の留意点をいくつか述べたいと思います。

契約書チェック時の留意点

相手方が準備した契約書は疑え

契約書を作成する際、まず、自身と相手方どちらが契約書の素案を準備するかが問題となります。

 自身で契約書を作成するのは大変ということで、相手方が契約書の素案を準備すると申し出てきた場合、渡りに船と考えられるかもしれません。しかし、相手方が準備した契約書の素案でそのまま契約するのは大変危険です。

相手方が契約書の素案を準備する場合、よほどのことがない限り、相手方は、最大限自分に有利な内容の契約書を準備してくるはずです。あらかじめこちらに有利な内容の契約書を作成してくれることなどまず考えられず、もし双方に中立的な内容であれば、万々歳ではないでしょうか。

相手方が契約書の素案を準備してきた場合、一見よくできた契約書でも、「どこかに落とし穴があるのではないか」と疑い、入念にチェックすることが必要となります。

用語の使用方法が統一されていない契約書は危険

契約書の目的は、合意内容を明確にすることにありますが、時に、用語の使用方法が統一されていない契約書を見かけます。例えば、同一の契約書内に「A」という言葉と「A’」という言葉が使用されており、第三者が見たときに、同一の用語なのかどうかが判別できないという場合です。

おそらく、契約書を作成した人は、自分のなかでは消化されているのでしょうが、このような契約書では、後に相手方と合意内容の解釈に争いが生ずる可能性がありますし、合意内容を裁判所などの第三者が判断することとなった場合、自身の考えていた解釈とは違う解釈が認められてしまう可能性すらあります。第三者がみたときに、誤解なく理解できる契約書は、当事者間でも、誤解なく理解できるはずです。契約書は、第三者が見たときにも理解できることが重要なのです。

そのような視点で契約書が作成される場合、自ずと用語の使用方法にも気をつけることとなるため、当事者間に疑義が生じうるような用語は、必然的に、あらかじめ定義をするなどの整理がなされることとなります。

契約書の用語の使用方法が統一されていない契約書は、契約書の作成にあまり慣れていない人が作成した可能性が高く、また契約書を作成した人の一方的な思いこみが入っている可能性もあるため、「相手方との合意内容と契約書上の表現にずれがないか」を入念にチェックする必要があります。

市販の契約書のひな形をそのまま契約書として取り交わすのは危険

以上をクリアするために、市販の契約書のひな形を利用することは大変有用です。

ひな形においては、一般的に定めるべき事項、一般的に問題となりうるリスクとそれに対処するための事項が網羅されているため、ひな形を用いることで、もれが少なく、かつ、リスクに網羅的に対処した契約書を作成することが可能となります。また、相手方が準備してきた契約書の素案をチェックする際にも、ひな形と比較することで、効率よく一般の契約と比べてどの部分が自身に不利となっているかをチェックすることが可能となります。

しかし、市販の契約書のひな形をそのまま契約書として取り交わすのは危険です。

市販の契約書のひな形が、今回契約を締結しようとする実際の取引と完全に合致することはむしろ稀だからです。そして、実際の取引と完全に合致しないにもかかわらず、市販の契約書のひな形そのままで契約をした場合、契約書がトラブル解決に全く役立たないばかりか、かえって双方が想定しないところで契約書に縛られてしまい、トラブル解決の障害となってしまうことも考えられます。

そこで、取引の内容・流れを具体的にイメージし、ひな形と実際の取引との間にずれがないかを入念にチェックしたうえで、必要に応じた修正をすることが必要となるのです。

なお、このような修正の際に注意すべきなのが、たとえ一部のわずかな修正であっても、契約書の他の条項や、場合によっては契約書全体に影響が及ぶ可能性があるということです。修正をした際には、面倒でも、再度、契約書全体をチェックし直すことを忘れてはいけません。

まとめ

取引実務においてトラブルが発生するのはごく稀ですので、そのトラブルに備えて契約書のチェックに労力を割くのは大変ではありますが、その労力を惜しんだがために、重大なトラブルに見舞われることもありえます。

根気よく契約書をチェックし、防げるトラブルを予防しましょう。

H21.3掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。