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フランチャイズ契約における競業避止義務条項

フランチャイズ・システムとは

フランチャイズ・システムという言葉は、すっかり社会に定着した感があります。統一的な定義があるわけでもありませんが、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会のホームページでの用語解説では、「フランチャイザー(本部)が,フランチャイジー(加盟者)と契約を結び,フランチャイジーに対して,自己の商標,サービスマーク,トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識および経営のノウハウを用いて,同一のイメージのもとに事業を行う権利を与えるとともに経営に関する指導を行い,その見返りとしてフランチャイジーから契約金,ロイヤルティ等の一定の対価を徴するフランチャイズの関係を組織的・体系的に用いて行う事業の方法」と説明されており、これがわかりやすいように思います。

フランチャイズ契約における競業避止義務条項

フランチャイズ契約をめぐるトラブルの増加

フランチャイズ・システムは、フランチャイザーによる経営ノウハウ等の提供により、事業の経験が必ずしも豊富ではない人が事業に参入することができる機会を与えるもので、ビジネスモデルとして非常に有益なものであるといえるでしょう。

しかし、経営ノウハウ等の情報をフランチャイザーが提供し、フランチャイジーが開業のための資金を投下し、ロイヤリティを支払うというフランチャイズ・システムの基本的な構造の中では、フランチャイジー側で思惑と違う事態になると、「情報提供がきちんとされていない」といった形でトラブルが生じやすいともいえます。

この情報提供義務に関するトラブルは、フランチャイズ契約開始時あるいは期間中のトラブルといえるものですが、最近ではそれにとどまらず契約終了後のトラブルも増えているようです。契約が終了すると契約による拘束から解かれるので、普通は争いは起きないはずですが、契約終了後も当事者を拘束する「競業避止義務条項」を巡るトラブルが出てきているのです。

競業避止義務条項

「フランチャイジーは、本契約終了後2年間は、自営も含め、同一商業地域で、同一の営業をしてはならないものとする。」というような条項が、競業避止義務条項といわれているものです。

前述のとおり、フランチャイズ契約は「経営ノウハウ等の情報提供」というものに重点が置かれた権利義務関係ということができますので、フランチャイザー側としては、貴重なノウハウが適正な対価の支払いもないまま流出してしまわないように、情報の管理に腐心することになります。秘密保持義務は当然課すのですが、現に秘密を保持しているかどうかのチェックは困難です。そこで、そもそも秘密を使用できない状況とするために、「同一の営業をさせない」という競業避止義務条項を入れるのです。

営業の自由

他方、フランチャイジー側には営業の自由というものがあります。どこでどのような営業をするかは基本的に自由であり、それは憲法(22条1項)上の権利ということができます。

つまり、競業避止義務は、本来自由であるべき営業を制約するものであるという性質があるのです。

競業避止義務条項の有効性

契約条項は当事者が合意したものであれば有効であることが原則ですが、公序良俗に反するものは無効とされます(民法90条)。また、同じような意味で、当該条項に基づく主張をすることが、信義誠実の原則(民法1条2項)に反する場合は、その主張が認められないということもあります。

競業避止義務条項についても、上記のように営業の自由を制約するものだけに、条項の有効性や、条項に基づく営業差し止めの主張などが信義則に反するのではないかということが争いになります。

裁判例では、(1)禁止される営業の範囲、(2)期間、(3)場所が合理的な範囲に収まっていれば、競業避止義務条項も有効であるという傾向がありますが、画一的に期間が何年であれば大丈夫とか、場所的制約がこの範囲であれば大丈夫というものはなく、事案毎に個別に検討をしなくてはなりません。

競業避止義務条項に基づく主張が信義則に反するとされた事例

そこで、比較的最近事例(東京地裁平成27年10月14日判決)でイメージをつかんでみることにしましょう。

XはYのフランチャイジーとなる契約を締結し、ショッピングモール内でフランチャイズの時計店を運営しておりましたが、Yからフランチャイズ契約を解約されてしまったため、今度は屋号を変えて自らが同じモールで時計店を営むことにしました。しかし、フランチャイズ契約には、「本契約終了後2年間は、自営も含め、同一商業地域で、同一の営業をしてはならないものとする。」という条項があるとして、Yから営業禁止の通告を受けてしまいました。裁判では、このYの主張は信義則に反するかどうかが争点となりました。

期間は2年に限定しておりますし、同一商業地域というのも一応限定しており、しかも本件は同じショッピングモールでの営業という事案なので、一見すると競業避止義務条項に基づくYの主張が認められてもよさそうです。

しかし、裁判所は、Y(フランチャイザー)が主張するノウハウであるシステムについて、商標等の使用、プライベートブランドの時計の販売、Yの物流センターからの仕入れというのは契約に記載されているが、それ以外の具体的な内容及び有用性については明確な主張立証がなく、結局のところ「保護に値するYのノウハウが含まれていると認めることはできない」としたうえで、解約につきXに帰責性もないことや、営業禁止によるXのダメージなども踏まえて、Yの競業避止義務条項に基づく営業禁止の主張は信義則に反し許されないと判断したのです。

ここで注目したいのは、競業避止条項の根幹にかかわる秘密保護の必要性を否定したことです。ノウハウといえば何でも保護されるわけではなく、その具体的有用性や独自性がきちんと立証されないと、保護されない可能性があるということです。フランチャイザーの立場であれば、競業避止義務条項の存在に安心せずに、常にそのノウハウの有用性、独自性をどう証明するのかを意識しておくべきということになります。

H29.2掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。