中小企業の法律相談

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従業員の横領が発覚、そのとき会社は?~不祥事対応の初動を考える

不祥事はどの会社でも起こりうる

従業員や取締役が億単位の金銭を横領していたなどという驚きの報道を目にします。役職員による横領、背任、詐欺などの不祥事は、いくら充実した体制を整備しても、100%防止することはできません。どの会社でも起こり得る事態だと認識する必要があります。

不祥事が発覚する端緒は、ごく平凡な日常の業務の中にある断片的な情報です。なんとなく引っかかる帳簿の動き、金額の間違いを指摘する取引先からの電話、ゴミ箱にあった見慣れない帳票・・・。疑念が生じたそのあと、会社はどうしたらよいのか、不祥事対応の初動について考えてみたいと思います。

従業員の横領

不祥事対応の主眼

不祥事対応の主眼は、発覚から時間が経過するにつれ変化します。当初は「被害の拡大防止」、次に「事実関係の解明」、そして「関係者の適切な処分」「責任追及と被害の回復」、続いて「再発防止策の策定」へと主眼が移ります。

まず「被害の拡大防止」は、スピーディな対応が必要です。現在進行形の事案か否かを素早く見極め、必要に応じて取引や決済を止め、担当者を現場から外すなどの措置をとります。気を付けたいのは、次に主眼となる「事実関係の解明」を妨げない形で措置を講じることです。会社が不正を把握したことを当人が察知していないのであれば、できるだけ自然な理由をつけて現場から外し、証拠隠滅の機会を与えずに、被害拡大を防止することが望ましいといえます。

次に主眼となるのは早期の「事実関係の解明」です。これが不十分では、その後の関係者の処分もままならず、再発防止策も不完全となってしまいます。調査チームで対応することが多いのですが、その際の留意点は後述します。

会社としては、事実関係を解明した後が肝心です。「関係者の適切な処分」、すなわち不祥事に関与した役職員や監督者に対する人事処分を検討します。責任の所在を明確にし、適切に処分することは、社内の規律を維持し、同種事案の再発防止のために不可欠ですし、対外的には会社の自浄能力を示すことになります。

続いて「責任追及と被害回復」です。不正を働いた者に対し、刑事告訴を通じて刑事責任を追及し、また民事上の損害賠償責任を追及して被害回復を図ります。

このような一連の対応策を講じたところで、「再発防止策の策定」となります。調査の結果判明した事実を踏まえて原因を分析し、内部管理体制の見直しも含め、具体的・実効的な対策を打ち出さなければなりません。そのためにも、初動での「事実関係の解明」でどれだけ真相に近づけるかがカギとなります。

では、初動で特に重要な「事実関係の解明」の手法と留意点について考えてみましょう。

調査主体の構成

経営陣が関与する組織的な不祥事や、マスコミ報道され世間の耳目を集めている事案であれば、外部の第三者で構成される調査委員会(第三者委員会を含む)を設置する必要がでてきますが、そうでなければ、通常は、役職員で構成する社内調査チームが事実調査を実施します。

事実関係の解明は、単に表面的・外形的な事実を把握すれば足りるものではありません。どの程度の深さまで真相を掘り下げて解明する必要があるのか、どのような証拠を集める必要があるのか、法的な見地から調査範囲と方法を判断する必要があります。例えば、人事処分を法的に争われる可能性を考えると、証拠価値の高い客観的な資料を効果的に集める必要があります。上司の監督責任を問うべき事案だと判断すれば、なぜ不正を見抜けなかったか、社内体制の整備状況の確認も必要となります。取引先に被害が出ている事案では、取引先に提出依頼する資料を早期に特定しなければなりません。

したがって、法務部やコンプライアンス部門の、法的素養のある役職員が中心となって調査チームを構成することが望ましいでしょう。また、事案の規模にもよりますが、弁護士を早い段階から社内調査に参加させ、社内調査と並行しつつ法的検討・分析を加えることが有益でしょう。膨大な会計帳簿類の分析が必要となる事案では、公認会計士にも協力を依頼します。

証拠の収集と調査報告書の作成

事実関係の解明のためには、証拠の収集が欠かせません。証拠には、関係者のヒアリングで得る供述証拠と、帳簿や手帳、取引関係書類、電子メールなどの物的証拠があります。通常はまず物的証拠を把握し、それをもとにヒアリングを実施します。

物的証拠の収集はスピード感をもって行います。証拠が破棄・隠匿、改ざんされる前に、迅速かつ確実に確保することが重要です。文書のほか、貸与している携帯電話やパソコンを回収し、時にはデータを復元しながら、証拠を分析することになります。

続いて、関係者のヒアリングを実施しますが、実施場所やヒアリング手法にも工夫が必要です。余りに威圧的な環境ですと、対象者が警戒して真実を話さなくなる危険があり、かといって緊張感の欠けた環境では、のらりくらりと話をかわされてしまいます。敵意をもって質問すると、対象者も頑なな態度をとります。しかし、対象者に迎合しすぎると、表面的な供述をなぞるだけに終始し、真相にたどり着けません。

対象者に共感する態度を示して事情を聞きだしつつ、動かぬ物的証拠を突きつけ、不合理な弁解では会社は納得せず、対象者にとっても不利になることを十分理解させる必要があります。

ときには、対象者から「これは秘密にしてほしい」といわれたり「正直に話して自分は責任を問われないのか」と質問されることもあります。なんと答えて供述を引き出すのか予め考えておくべきでしょう。

調査チームによる調査結果は、報告書にまとめます。報告書には、調査の主体や実施方法について明示したうえで、証拠をもとに、認定した事実を過不足なく記載します。その後の人事処分や刑事・民事上の責任追及、再発防止策の策定の基礎となるものですから、主観に偏らず、客観的な事実認定を行うことが重要です。

冷静かつ戦略的な危機対応を

信頼して権限を与えていた役職員の不祥事が発覚すると、裏切られたという怒りと不安から、つい感情的になり、いきなり対象者を問い詰め証拠隠滅の機会を与えたり、思い込みで処分したりしかねません。危機に直面した時こそ、冷静かつ戦略的な対応を心がけましょう。

H30.12.01掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。