中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

SNSを巡る労務管理~従業員の投稿が炎上して会社の信用失墜・・・という事態にならないために~

はじめに

ここ数年、従業員が、twitter等のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で会社の秘密情報や顧客のプライベート情報を流したり、会社や第三者を誹謗中傷する書き込みをして「炎上」させる事件が後を絶ちません。

そのような事象が起きた場合、会社はどのような損害を被るのでしょうか。そして、会社としてそうした事象の発生を未然に予防する方策はないのでしょうか。

SNSを巡る労務管理

「炎上」によって会社が被る損害

信用棄損

従業員による不適切な投稿をきっかけに炎上し、それが勤務先の会社と結びついた場合、会社の信用は大きく傷つけられます。

例えば、以前、某ハンバーガーショップのアルバイト店員が店舗の床に並べた大量のバンズの上に寝そべっている画像をtwitterに投稿した事例がありましたが、その画像を見た人は、そのハンバーガーショップの商品の衛生面やサービスに不信感を感じたでしょうし、店舗を運営する会社に対して適切な従業員教育がなされていないという印象を抱き、嫌悪感や拒否感を感じたと思われます。

また、従業員が店舗を訪れた顧客に関する情報等を漏えいした事例も複数ありましたが、そうした事象が発生すれば、勤務先の会社は情報管理を適切に行っていないという印象を与え、会社の信用は大きく損なわれます。

現にそうした不適切な投稿をきっかけに、商品の買い控えや取引停止という事態を招き、実際に店舗の閉鎖・休業に追い込まれた例もあるようです。

損害賠償責任

一方、従業員が不適切な投稿等により第三者の名誉権等の権利を侵害した場合、当該従業員は当該第三者に対して損害賠償責任を負うことになりますが(不法行為責任。民法709条等)、当該行為が使用者の「事業の執行について」なされた場合、会社自身も従業員と連帯して損害賠償責任を負うことになります(使用者責任。民法715条)。

どのような場合に「事業の執行について」なされたと評価されるかという点については、外形的にみて従業員の職務の範囲に属する行為と言えれば「事業の執行について」なされたものと評価されると考えられています。つまり、従業員が就業時間中に会社から貸与されているPCを利用して不適切な投稿をした場合であっても、「事業の執行について」なされたと評価される可能性があるのです。

このように、SNSを通じた従業員の軽率な言動によって、会社の信用が著しく毀損され、甚大な損害を被る可能性があることは十分に認識しておく必要があります。

予防策

こうした事象の発生を未然に防ぐための方策としては、次のようなものが考えられます。

就業規則の整備

就業規則の中にSNSに関する規定を設けて、①従業員にSNSの特性(手軽に情報発信できる反面、一度発信すると全世界に拡散し、拡散した情報を完全に削除することは不可能であること)を理解させること、そして、②規定に違反すれば懲戒処分の対象になることを明示し認識させることは重要です。

そして、②の懲戒処分との関係では、新たなSNSの誕生やサービスの変化に対応できるよう、あまり細かな点まで踏み込んだ規定にはせず、一般的な規定にとどめることをお勧めします。

例えば、就業規則の服務規律の規程の中に「社員は、勤務中、業務に専念しなければならない」と定めておけば勤務中のSNSを通じた不適切な行為を捕捉できますし、同じく服務規律の規程で「社員は、私的な行為であっても、会社の名誉や信用を傷つけるような行為を行ってはならない」と定めておけば勤務時間内外を問わず業務遂行に関連するような不適切な投稿を捕捉できます。また、就業規則の中で機密保持義務を定めておけば、投稿によって生じる情報漏えいも捕捉できます。

そして、各規定に違反すればそれを理由に懲戒処分を行うことができますから、懲戒処分の対象になることを含め、就業規則の内容を周知徹底すれば、軽率な投稿等を抑止する効果が期待できるのです。

ガイドライン等の整備

ガイドラインは、会社が従業員に対して、SNSの利用に関する会社の基本姿勢を示すとともに、SNSを利用する際の留意点を周知徹底することを目的とするものです。

ガイドラインは、あくまでも従業員にSNSの特殊性を理解してもらうこと、その上で適切に利用することを促すものに過ぎません。

したがって、ガイドラインに違反したことのみをもって直ちに懲戒処分等の人事措置を採ることはできませんが、当該行為が就業規則にも違反している等の理由で懲戒処分の対象となった場合には、会社が定めたガイドラインに違反する行為をあえて行ったものとして懲戒処分の軽重に影響するものと考えられます。

社員教育

実際に問題になった事例をみると、そもそも従業員がSNSの特性を理解していなかったり、自分の投稿によって法的な問題が発生する可能性があるということを認識していなかったという例が多いように思われます。

そこで、会社としては、SNSの特性、SNSの機能や設定上の注意点、SNSで発信すべきでない内容、就業規則やガイドラインの紹介、実際に問題になった事例の紹介等を内容とする社員研修を行うべきです。

また、SNSの特性を踏まえた留意点を記載した誓約書を作成して従業員の署名をもらっておくことも、事実上の抑止効果を高めるという意味で効果的と思われます。

最後に

総務省の調査によれば、スマートフォン利用者のうち、LINE、Facebook、Twitter等の6つのSNSサービスのいずれかを利用している割合は、2012年の41.4%から、2016年には71.2%にまで上昇したそうです。

そして、様々な炎上事例が日々ニュース等で取り上げられるに従い、SNSの特性に対する社会の認知度も上がってきました。

数年前であれば「SNSって怖いな。この会社も困った従業員を雇ってしまって運が悪いな」と同情的な声も一部聞こえていましたが、これだけSNSの特性に関する認知度が上がり炎上事例が頻繁に起こる現在に至っては、同情的な声はほぼ聞こえなくなりました。

むしろ、「この会社の従業員教育はどうなっているんだ」「この会社の情報管理は甘すぎる」といったように、会社のSNSに対する取組みが批判の対象になるようになり、今後はそうした声がさらに大きくなると肝に銘じておかなければなりません。

SNSを巡る労務管理はすべての会社において早急に取り組むべき課題といえるでしょう。

H30.04掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。