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訴訟手続きの中での和解

はじめに

争いごとが生じたので裁判所に訴訟を提起したが、「判決」ではなく「裁判所において和解」をすることで紛争が解決し、訴訟が終了するということが、しばしばあります。これを「訴訟上の和解」と呼んでいます。今回は「訴訟上の和解」についてお話しします。

訴訟手続きの中での和解
Q.訴訟が和解で終了するということは、新聞記事で知っていますが、どのくらいの割合なのですか。

地裁での判決数と和解数を単純に比較すると約55:45の割合です(平成24年度司法統計年報による)。判決数は、被告が争っていない欠席判決を含んでいますので、争いのある事件での比較からすると、ほぼ同数と言ってよいと思います。

Q.それは意外です。当事者は、話合いがつかないから、訴訟を提起したのに、訴訟手続ではそんなに多くの「和解」が成立しているのですね。

そうです。多くの場合、当事者は、自分の言い分と相手方の言い分とどちらが正しいか、裁判所に判断してもらいたい、という気持ちで裁判所に訴訟を提起しているのでしょうが、現実には「和解」による解決はとても多いのです。「判決」と「和解」は裁判において「車の両輪」と言われています。

Q.裁判になっているのに、どうして判決を貰わずに和解をするのでしょうか。

訴訟上の和解は、確定判決と同じ効力を持つ(強制執行ができる)のですが、さらに判決にはないメリットがあるのです。

Q.どのようなメリットですか。

第1は、紛争が早く解決することです。判決ですと、尋問があるのが普通ですが、尋問する前に和解が成立すれば、その分解決は早くなります。さらに、判決の場合は上訴の可能性があり、いったんは判決が出ても敗訴した側が不服申し立てをして、さらに上級審で裁判が続く、ということがありますが、和解であれば上訴は生じませんので、早期の解決となります。

第2は、判決リスクを回避することができる点です。判決は証拠が勝負です。判決では、証拠不十分と判断されて、負けてしまう可能性があります。法の解釈で不利な判断をされる可能性もあります。これに対し、和解にはこのような「不確実性」ということがありません。

第3は、判決の場合結果はクロかシロ、100:0です。しかし、和解であれば、双方にそれぞれの言い分を汲み取ってもらうことができ、判決にはない柔軟な解決案が可能です。違う言い方をすれば、和解は、全部勝つということはありませんが、全部負け、ということもない、ということです。

第4は、和解では多くの問題を一挙に解決することが可能であることです。これに対し判決では、紛争の根本部分が解決されず、この訴訟は終了するが、今後第2、第3の訴訟があり得る、という事態が生じてしまいます。

第5は、履行の可能性です。勝訴判決を得ても相手方が履行してくれない、ということがあり、その場合別途強制執行手続きをとることとなり、判決内容実現のためにさらなる手間がかかることがあります。これに対し、和解が成立すると、相手方はその内容を守ってくれる可能性が格段に高くなります。

第6は、費用の点です。前記のように上訴があったり、強制執行手続きをとることとなった場合は、その分余計に費用がかかることとなります。和解ではその費用負担のリスクを小さくできます。

Q.和解はいいことばかりのようですが、和解のデメリットは何ですか

最大のデメリットは、100%の満足はない、ということです。

Q.ということは、和解には、モヤモヤした気持ちが生じてしまう、ということですね。

確かに、例えば、裁判所から和解案が提案されたとき、とくに100%勝つと思っていた側、我にこそ正義があると思っていた側にはスッキリしない気持ちが生じるのは当然でしょう。しかし、良く考えてみる必要があります。相手方は本当に100%悪いのか、相手方の主張にもそれなりの理由があるのではないか、当方は全く落ち度がないのか、証拠が十分なのか、等々。

一方が100%満足する和解というのは、相手方にとっては負けに等しいので、相手方はそのような和解をするくらいならば判決を貰った方がいい、という考えになり、和解に至りません。そもそも、和解とは、民法上、「当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生じる」とされており(民法695条)、和解の本質は、お互い譲るべき点は譲り合う、という点にあります。冷静になって、和解におけるメリットを十分認識した上、譲るべき点は譲り和解できないか、を考えることは十分価値のあることです。

Q.さて、訴訟手続きの中で、和解はどのような形で成立していくのでしょうか。

当事者の方から裁判官に「和解で解決したい」と提案したり、裁判官の方から、「和解によって解決をしたらどうでしょうか」と和解を勧め、和解協議に入る、というのが通常のパターンです。

Q.和解協議に入る時期、というのは決まっているのですか

決まりはありません。裁判が始まってすぐに和解協議に入ることもあれば、裁判が始まって暫くは、原告被告がそれぞれ言い分を主張し反論し合い、こうして言い分が出揃った時点(このときまで、数カ月間、場合によっては1年を越えることもあります)で和解協議に入ることもありますし、さらにその後尋問まで手続が進んだ後に和解をすることもあります。様々な紛争で、その紛争の解決にふさわしい時期に和解協議に入る、ということです。

Q.和解すべきでないケース、和解出来ないケース、というものがありますか

まず、例えば、一方当事者の主張が公序良俗に反する場合は、その主張を認めることはできませんので、和解はすべきではありません。

また、原告が、法文の解釈について裁判所の判断を仰ぐために訴訟を起こしてくるケース、あるいは、企業のコンプライアンスの点から、和解という当事者の話合いによる解決ではなく、裁判所の判断にしたがった解決がベターであると当事者が考えているケースは、当事者には和解をしないという方針がありますので、和解できません。また、当事者の感情的対立が激しい場合も和解に至りません。本来であれば和解による解決がふさわしいのに、双方の代理人弁護士も、また裁判官も力を尽くしても感情的対立が収まらず、和解出来ない場合は、とても残念なことです。

Q.和解についての注意事項としてはどのようなものがありますか。

和解条項の中に登記手続き事項がある場合は、登記実務上、その条項にしたがって登記手続きができるか、十分調査する必要があります。また、和解の内容を履行しないため、退職金を差し押さえようとしたところ、和解条項が不備で強制執行できなかったという例もあります。さらに税務上の問題も生じることがあります。弁護士・司法書士・税理士等の専門家のトータル的なアドバイスを得ることが必要です。

H26.3掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。