中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

消費者契約法

承知のとおり、平成一三年四月一日より消費者契約法が施行されております。消費者相手の取引をされている企業においては、この法律の施行により、神経質になっているかもしれません。しかし、法律は無理難題を要求しているものでは決してありません。法律を理解しないまま、イメージだけで、殊更に神経質となって、営業力を低下させてしまうというのは、事業者としては避けなくてはなりません。

そこで、今回は、消費者契約法の理解を深めるため、特に法律の目玉とされている契約の取消についてお話したいと思います。

消費者契約法

消費者契約とは

この法律は全ての消費者契約に適用されることとなっています。

消費者契約とは、事業として契約をする以外の個人(これを消費者と考えます)と事業者との契約をいいます。

ここで注意を要するのは事業をしている個人であっても、その事業と無関係に事業者と契約をする場合には、この法律の適用があるということです。

契約の取消制度とは

法律は、一定の場合、消費者は契約の申込あるいは承諾の意思表示を取り消すことができるとしております。詐欺、錯誤とか、信義則違反ということを問題にするまでもなく、契約の取消権を認めたのです。

これがある意味で事業者の脅威となっているかもしれませんが、法律は「一定の場合」をちゃんと定めているので、「やってはいけないことがはっきりした」という意味で、むしろやり易くなったといえるのではないでしょうか。

とすると、以下の取り消されるような場合をきちんと理解しておくことが何より肝要です。

なお、この取消権は、追認することができるときから六ヶ月以内、契約のときから二年以内に行使しなくてはならないことになっています。

  1. 誤認類型
    まずは消費者が契約を締結するという意思決定をする上で、誤認を生じさせるような営業方法は契約取消しの対象となります。
    誤認を生じさせる行為といっても抽象的ですが、法はきちんとそのような行為も定めております。
    1. 第一に、契約をするかどうかを決定する上で重要な事項について事実と異なることを告げることです(不実の告知)。
      故意に虚偽のことを告げるのは当然ダメですが、故意ではなく過失で事実と異なることを告げてしまったという場合もダメです。例えば、不動産取引において、真実は築10年なのに営業マンが築5年と勘違いしてこれを告知してしまったという場合も取消の対象となります。しかし、これは事前の調査を十分にしていれば避けられることといえるでしょう。
      また、ここで不実の告知とは、「客観的事実」と異なることをいうので、客観的に判定のできない主観的評価については、不実の告知とはなりません。例えば、「新鮮です」と言って売ったが、消費者は新鮮とは思わなかったというようなケースは、新鮮かどうかは客観的に判定することができない主観的評価であって、不実の告知とはなりません。
    2. 第二に、将来における価額とか、将来受け取るべき金額等が、不確実であるにも関らず、断定的にそれらが受けられると告げることです(断定的判断の提供)。
      「絶対値上がりします」などと将来の不確実なことを断定してしまってはダメということで、これも当然でしょう。
      ただ、断定するのがいけないのであって、例えば「過去のデータからすると元本割れはないと私は思います」というのであれば、断定していないので断定的判断の提供にはなりません。
    3. 第三に、契約をするかどうかを決定する上で重要な事項について、一方で消費者に利益になることを告げていながら、他方で不利益になることを故意に告げないことです(不利益事実の不告知)。
      不利益事実の不告知というと、「どこまで情報を開示しなくてはならないのかわからない」と不安になりますが、ここでは一方で利益になっていることを告げていながら、不利益となることは言わないというのがダメというのであって、ある事項について、利益になることを告げていることが前提にあります。
      たとえば、「高利回りの商品です」と告げながら、元本割れの危険性もあることを故意に告げなかったというのは不利益事実の不告知となりますが、そもそも「高利回り」ということを言っていなければ、元本割れの危険性を告げていなかったとしても不利益事実の不告知とはならないのです。
      もちろん、後述の努力義務からすると、右の元本割れの危険性については告知すべきではありますが、少なくともこの法律では契約取消まではできないことになっています。
  2. 困惑類型
    1. 第一に、消費者が事業者に対し、その住居、業務場所から退去して欲しい旨意思表示したにも関らず、それらの場所から退去しなかったときです(不退去)。
      この「退去して欲しい」というのは直接的な言葉で発しなくても、例えば「時間がありませんので」といった間接的な表現や、手振りで帰ってくれと動作したときとかも含まれますので、注意が必要です。
      興味を示していない消費者相手に粘るというのはマズイと理解しておくべきでしょう。
    2. 第二に、消費者が勧誘場所から退去したい旨意思表示したにも関らず、事業者がその場所から退去させないときです(監禁)。
      このような勧誘が許されないのはあまりに当然のことでしょう。

努力義務について

また、法律は消費者契約の締結を勧誘するときは、消費者の理解を深めるために消費者の権利義務、その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努める義務を定めています。

但し、ここで注目すべきは、「努力する」義務となっている点です。つまり、もしこの義務に反したとしても、前述した契約を取り消すことができるといった効果までは与えていません。

もちろん、だからといって情報提供しなくてもよいということではありませんし、できる限りの情報提供はすべきでしょう。しかし、「消費者契約法では、情報提供に少しでも不足があれば、たちまち契約が取り消されてしまうので、消費者相手の商売に躊躇を感じている」とすれば、それは誤りです。

要は常識的な営業をしている限り、何ら恐れるに足りないのです。

H13.6掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。