中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
パートタイム労働者の雇用管理
パートタイム労働法
近年、雇用形態が多様化し、パートや契約社員、嘱託社員などと呼ばれる短時間労働者(パートタイム労働者)が増加しています。
パートタイム労働者であっても、役職に就くなど責任ある立場で働く者が増えている一方で、仕事や責任は正社員と同じなのに、賃金などの待遇が働きに見合っていないとか、希望してもなかなか正社員にしてもらえないなどの問題も生じています。
このような問題を解消し、パートタイム労働者の雇用環境を整備するため、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が改正され、平成20年4月1日に施行されました。
パートタイム労働者の待遇を通常の労働者と均衡のとれた待遇とするための措置や通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずることが事業主に求められることになります。
パートタイム労働者とは
パートタイム労働法の対象となる短時間労働者(パートタイム労働者)とは、1週間の所定労働時間が同一事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者をいいます。
「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託社員」「契約社員」「臨時社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、パートタイム労働者としてパートタイム労働法の対象となります。反対に、「パートタイマー」「嘱託社員」等と呼ばれていても、フルタイムで働く労働者は、パートタイム労働者ではなく通常の労働者となります。
パートタイム労働者の雇用管理
パートタイム労働者であっても、労働基準法上の労働者であることに変わりはなく、労働基準法、男女雇用機会均等法、最低賃金法、労働安全衛生法、育児・介護休業法等の全面適用を受けます。
したがって、例えば、パートタイム労働者であっても、自由に解雇することはできません。「パートタイム労働者はいつでも解雇できる」というのは誤解です。通常の労働者と同様の解雇制限があり、不合理・不相当な解雇は無効となりますし、30日前の解雇予告等が必要となります。パートタイム労働者の場合、契約期間を定めている場合が多いと思われますが、契約更新を繰り返し、事実上期間を定めない雇用契約と同じような状況になっている場合は、雇止めにも合理的な理由と相当性が必要です。
時間外割増賃金を支払う必要もあります。パートタイム労働者は所定労働時間が通常の労働者より短く設定されていますが、所定労働時間を超えて労働した場合はその分の時間給を、さらに法定労働時間を超えて労働した場合には、25%以上の割増賃金を上乗せして支払うことになります。
年次有給休暇の付与や健康診断の実施についても、通常の労働者と同じです。
男女雇用機会均等法の適用もありますので、例えば女性のパートタイム労働者について婚姻・妊娠・出産を理由に解雇する等してはなりません。また、育児・介護休業法も適用されますので、パートタイム労働者が申し出た場合、事業主は、同法に従った育児休業や介護休業をさせなければなりません。
このように、パートタイム労働者に対しても、通常の労働者と同様の雇用管理をすることが必要であり、これに加えて、次のようなパートタイム労働法が定める措置をも講ずる必要があるのです。
労働条件の文書交付
事業主は、労働者を雇い入れる際には、契約期間、就業場所、業務内容、労働時間、賃金の計算方法等の労働条件を明らかにした書面を交付しなくてはなりません。改正パートタイム労働法は、これに加え、パートタイム労働者を雇い入れるに際して、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無について文書等により明示することを義務付けました。
これは、パートタイム労働者の労働条件が一律ではないため、雇い入れ時に労働条件をはっきりさせておかないと、後日、労働条件に疑義が生じてトラブルとなりやすいためです。
就業実態が通常労働者と変わらないパートタイム労働者の待遇
パートタイム労働者であっても、その働き方が通常の労働者と同じであれば、その待遇についても同じように取り扱うべきです。
このため、改正パートタイム労働法は、通常の労働者と同じ就業実態にあるパートタイム労働者の賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生その他のすべての待遇について、パートタイム労働者であることを理由に差別的に取り扱うことを禁止しました。
基本給を例に考えて見ます。就業実態が通常の労働者と変わらないパートタイム労働者については、パートタイムであることだけを理由に基本給を低く設定してはなりません。このため、1時間当たりで見た通常の労働者の基本給と同額の基本給となるように設定することが必要です(実際に支払われる額が成績評価によって異なることを禁止するものではありません)。退職手当等についても同じです。
均衡のとれた待遇の確保
事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、パートタイム労働者の職務内容や能力、経験等を勘案して賃金を決定することが努力義務とされました。パートタイムだからという理由で一律に賃金を決定するのではなく、働きや貢献に応じて決定することになります。
また、パートタイム労働者の職務内容や人材活用の仕組み(転勤、人事異動、昇進等)が通常の労働者と同一の場合は、賃金についても同一の方法で決定し、同様の教育訓練を実施することが努力義務化されました。さらに、すべてのパートタイム労働者に対し、福利厚生施設の利用の機会を通常の労働者と同様に与えるよう配慮することが義務化されました。
加えて、パートタイム労働者から要求された場合、事業主は、その待遇の決定に当たって考慮した事項を説明しなくてはならないとされました。
通常の労働者への転換推進
事業主は、パートタイム労働者に対し、通常の労働者へ転換するチャンスを整えることが義務付けられます。例えば、通常の労働者を募集する場合、募集内容を既に雇っているパートタイム労働者にも周知したり、パートタイム労働者から通常の労働者への登用制度を設ける等の措置を講じることになります。
パートタイム労働指針
厚生労働者は、事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理に関しガイドラインを策定しています。ガイドラインに沿った雇用管理を実現し、パートタイム労働者がその能力を十分発揮できる職場作りに取り組むことが重要です。
H19.12掲載