中小企業の法律相談

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元請下請関係を巡る建設業法上のルール

下請制度そのものは建設業に特有のものではありませんが、建設業では下請への依存度が著しく高く、また製品の納入という形ではなく、現場における労働力の提供という形態をとることに特徴があります。本来、下請契約は各々対等な立場に基づいて締結される必要があります。しかし、わが国の建設業の特徴である重層的下請制度のもとでは、元請が取引関係での強い立場を利用して、下請に不利な契約を押し付ける傾向があり、「半値八掛け」と言われるように、合理的な理由のない代金減額要求がまかりとおっているとの指摘もあります。

このような問題を解消し、適正な元請下請関係を構築するために、建設業法は、下請契約の締結に際して遵守すべきことを様々に規定しています。令和元年6月に改正建設業法が成立しましたので、これも併せて紹介します。

元請下請関係を巡る建設業法上のルール

見積もりにおけるポイント

施工責任範囲や施工条件が不明確だと、元請下請間の紛争が起こる要因となりますし、適正な見積もりのためには、工事見積条件が元請業者から明確に示されていなければなりません。

そこで、建設業法は、見積もり依頼時には工事内容や、工期、支払条件等、契約内容となるべき重要事項をできる限り具体的に提示しなければならないこととしています(20条3項)。中でも工事内容については、工事名称、施工場所、設計図書のほか、下請工事の責任施工範囲や工事の全体工程、材料費や産廃処理にかかる費用負担区分等の8項目を明示することがガイドラインで求められています。

また、適正な見積もりを確保するために、見積もりに要する期間も法定化されています(20条3項)。500万円未満の工事であれば中1日以上、500~5000万円の工事は中10日以上、5000万円以上の工事は中15日以上の見積もり期間が必要です(施行令6条)。

さらに、見積もりは、工事の種別ごとに、経費の内訳(労務費、材料費、共通仮設費、現場管理費、機械経費、法定福利費等)を明示するよう努めるよう規定されています(20条1項)。これらの項目を盛り込んだ標準見積書が国土交通省HPで紹介されています。

改正建設業法では、地盤沈下などの工期等に影響を及ぼす情報があれば、契約締結前に請負人に情報提供する義務があると定められました(20条の2)。

契約締結におけるポイント

請負代金の支払に関するトラブルの大半は、書面を取り交わしていないことが原因で発生しています。その場での口約束は重大なリスクです。代金支払を巡る紛争を未然に防止するためには、必ず書面契約を交わすことが必要です。

建設業法は、建設工事の請負契約の当事者(元請下請の双方)に対して、事前に書面による契約を義務付けています(19条1項)。書面には、工事内容や請負代金額、工期等、建設業法19条1項に定められた14項目を記載し、双方が署名又は記名押印して相互に交付することになります。一方的な差入れ形式では足りません。

また、契約内容が後日変更され、変更内容に関して当事者の主張が食い違うような場合、紛争に発展することが珍しくありません。契約内容を変更する場合は、速やかに書面化により変更契約を締結する必要があります。速やかな変更契約書作成等が困難な場合も、当事者が合意した変更内容を書面化し、相互に交付しあうことが必要です(同法19条2項)。後日、紛争が生じた際の重要な証拠となります。

不当に低い請負代金・著しく短い工期の禁止

請負代金や工期の決定は、施工範囲、工事の難易度、施工条件等を反映した合理的なものとすることが必要です。無理な手段、期間等を下請負人に強いることは、手抜き工事・不良工事の原因ともなります。

建設業法は、自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価にも満たない安い代金で下請業者に工事を無理矢理押しつけることを禁止しています(19条の3)。ここでいう原価とは、直接工事費のほか、現場管理費等の間接工事費及び一般管理費(法定福利費含む)を合計したものを指しますのでご注意ください。

また、下請契約締結後に、元請が、自己の取引上の地位を不当に利用して、資材や購入先を指定し下請の利益を害してはなりません(19条の4)。指定する場合は、見積依頼時にすべきです。

改正建設業法では、通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない旨が定められ、違反した際には、国交大臣による勧告や公表が可能となりました(19条の5,6)。

下請代金支払のポイント

下請代金が適正に支払われなければ、下請の経営の安定が阻害されるばかりでなく、手抜き工事、労災事故を誘発し、適正な施工確保が困難となります。そのため、建設業法は、工事の適正な施工と下請負人の保護を目的に、下請代金の支払に関するルールを設けています。

元請負人が注文者から代金の支払を受けたときは、下請負人に対して、1カ月以内に、かつ、できるだけ早く、下請代金を支払わなければなりません。特定建設業者が元請負人である場合、工事目的物の引渡しの申出があってから50日以内に、かつできるだけ早く、下請代金を支払わなければなりません(24条の3,5)。元請負人の竣工検査の早期実施及び目的物の速やかな受領も義務付けられています(24条の4)。

下請代金の支払はできる限り現金払いが望ましく、改正建設業法は、下請代金のうち労務費に相当する部分については特に現金払いするよう求めています(24条の3)。特定建設業者は割引困難な手形での支払が禁止されています(24条の5)。一般に手形期間が120日を超えると割引困難といわれています。

前払金を受けたときは、下請負人に対して資材購入、労働者募集その他工事着手に必要な費用を前払金として支払うよう配慮が必要です(24条の3第2項)。

ルールを守ってトラブル予防

請負代金を巡る紛争は、当事者に経済的・時間的・労力的な負担を生じさせます。その間の資金繰りが悪化し、再下請負人への代金支払や技術者・技能労働者への賃金支払が遅延し、ひいては取引先や雇用者からの信用低下につながるなど、経営上の重大な問題に発展するおそれもあります。

このような紛争を未然に防ぐために、建設業法が定めるルールを守り、適正な元請下請関係の構築を目指しましょう。

R02.04掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。