中小企業の法律相談

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事業者からみた改正入国管理法のポイント

はじめに

今年の4月1日、改正入国管理法が施行されました。少子高齢化に伴う人手不足やビジネスのグローバル化に対応するために、一定の専門性や技能を持つ外国人労働者を受け入れることが改正の目的とされています。

今回はこうした法改正に伴い、事業者として押さえておくべきポイントについて解説したいと思います。

事業者からみた改正入国管理法のポイント

新たな在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」とは?

(1)今回の法改正によって、「人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」(=「特定産業分野」)において、外国人労働者は、「特定技能1号」の在留資格を取得すれば「相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務」に、「特定技能2号」の在留資格を取得すれば「熟練した技能を要する業務」に従事することができるようになりました。

「特定産業分野」は以下の14分野です(※なお、特定技能2号については、当面の間、⑥建設と⑦造船・舶用工業のみ認められる見込みです。)。

①介護、②ビルクリーニング、③素形材産業、④産業機械製造業、⑤電気・電子情報関連産業、⑥建設、⑦造船・舶用工業、⑧自動車整備、⑨航空、⑩宿泊、⑪農業、⑫漁業、⑬飲食料品製造業、⑭外食業 

(2)「特定技能1号」と「特定技能2号」の主な違いは以下のとおりです。

特定技能1号 特定技能2号
在留期間 1年、6か月又は4か月ごとの更新
通算で上限5年まで
3年、1年又は6か月ごとの更新
上限なし
家族帯同 不可
(要件を満たせば配偶者及び子に家族滞在の在留資格付与)

技能の確認方法は?

対象となる外国人が「特定技能1号」ないし「特定技能2号」の技能を有するかどうかは、原則として各特定産業分野毎に実施される試験等で確認することになっています。

事業者に求められる対応は?

一方で、特定技能の在留資格を持つ外国人労働者を雇用する事業者のことを「特定技能所属機関」と呼びますが、「特定技能所属機関」として認められるためには、以下の3つの基準を満たす必要があります。

  1. 事業者自身が法務省令で定める基準に適合していること(改正法2条の5第3項)
    具体的には、①特定技能雇用契約を適正に履行していること(後述(2))、②特定技能外国人支援計画を適正に実施していること、③5年以内に入管法、労働法関係法令等に関し不正又は著しく不当な行為をしていないことが必要です。
  2. 基準に適合した「特定技能雇用契約」の締結
    事業者は、外国人労働者との間で、法務省令の定める基準に適合した雇用契約(「特定技能雇用契約」)を締結しなければなりません(改正法2条の5第1項)。
    具体的には㋐所定労働時間が、通常労働者と同等であること、㋑報酬額は日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること、㋒報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用等の待遇において、外国人であることを理由とした差別的取り扱いをしていないこと、㋓一時帰国を希望した場合、休暇を取得させること、㋔労働者派遣の対象とする場合は,派遣先や派遣期間が定められていること、㋕外国人労働者が帰国旅費を負担できないときは、事業者が負担するとともに必要な措置を講ずること等の基準を満たす必要があります(「特定技能雇用契約及び1号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令」)。
  3. 外国人支援計画の作成
    さらに、事業者は、1号特定技能外国人労働者に対する支援計画を作成・実施しなければなりません。ここにいう支援計画は、外国人が特定技能活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画を指します。 例えば、入国前の生活ガイダンスの提供、入国時の空港等への出迎え及び帰国時の空港等への見送り、保証人となることその他の外国人の住宅の確保に向けた支援の実施、外国人に対する在留中の生活オリエンテーションの実施(預貯金口座の開設及び携帯電話の利用に関する契約に係る支援を含む。)生活のための日本語習得の支援等を行うことが求められています(法務省「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針について」参照)
    なお、特定技能所属機関は、こうした支援業務の全てを登録支援機関(特定技能所属機関に代わって、支援計画を作成したり、特定技能1号の活動を支援する機関)に委託することも出来ます。

特定技能所属機関の義務

以上が「特定技能所属機関」として認められるための基準ですが、認められた後も、外国人と結んだ雇用契約を確実に履行すること、外国人への支援を適切に実施すること、出入国在留管理庁への各種届出を行うことが必要です。

これらの義務を果たさなければ、外国人労働者を受け入れることが出来なくなるほか、出入国在留管理庁から指導、改善命令等を受けることもありますのでご注意下さい。

また、事業者は、特定技能雇用契約の変更や終了、1号特定技能外国人の支援計画の変更の際等に、適宜、出入国在留管理庁に届け出なければなりません。

最後に

今回の改正により、外国人労働者の受入れが進むことが予想されますが、単に安価な労働力を期待して外国人労働者を雇うという視点は誤りですし、時代遅れです。

なぜなら、今回ご説明したように、法制度自体が、外国人労働者に適切な労働条件の提示や支援を義務付けていますし、そもそもシンガポール等のアジア諸国も外国人労働者の受入に積極的に取り組んでいる中で、優秀な外国人労働者を雇用することが困難な時代になっているからです。

優秀な人材を確保するためには魅力ある職場の構築を。

これが、日本人労働者だけでなく外国人労働者を雇う際にも重要な視点になっているのです。

R01.09掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。