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雇止めの法理~有期雇用契約の終了にもハードルがある~

雇止めとは

有期雇用契約には、「期間の定め」があるのですから、その期間が満了すれば当然に契約が終了するのであって、使用者からの意思表示は本来不要であり、そうである以上契約終了を巡る紛争も生じないはずです。

雇止めの法理

しかし、有期雇用契約の中には、更新が重ねられ、もはや期間の定め自体が形骸化しているようなものも多くあり、単に期間が満了していることのみで契約を終了させてしまっていいのか、労働者の合理的な契約更新への期待や信頼は保護すべきではないのかと考えられるようになり、「期間満了時に更新せずに契約を終了させるには使用者の意思表示が必要であり、そこに解雇法理を類推適用しよう」という裁判例が出されるようになりました。この使用者側の意思表示を「雇止め」と呼び、あたかも解雇のようにその有効性が問題にされるようになったのです。

労働基準法第14条第2項に基づく「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」では、期間の定めのある労働契約を3回以上更新していたり、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者については、期間満了の30日前までに雇止めの予告をしなくてはならないと定められるに至っております。さらに、上記基準では、労働者が更新しないこととする理由についての証明書を請求したときは、使用者はこれを遅滞なく交付しなければならないともしております。法令でも、一定の場合は、使用者が有期雇用契約を更新しないこととするには、雇止めの予告やその理由の明示も必要となっているのです。

解雇法理が類推適用される場合とは

雇止めに解雇法理を類推適用する裁判例のことを前述しましたが、類推適用とは、雇止めは解雇ではないものの、解雇と同様に、客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性がないと無効であるという考え方を取りいれるということです。

もっとも、有期雇用契約もその態様はいろいろであり、全ての有期雇用契約に解雇法理が類推適用されるものでもありません。では、どのような有期雇用契約に類推適用がされるのでしょうか。

そこで参考となるのは、裁判例を踏まえ、平成24年の法改正で新設された労働契約法第19条の規定で、次の二つの類型を示しております。

  1. 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより終了させることと社会通念上同視できると認められること。
  2. 労働者において有期労働契約の期間満了時に契約が更新されるものと期待されることについて合理的な理由があると認められること。
    整理のために、上記1.を「実質無期タイプ」、2.を「期待保護タイプ」と表現することにしましょう。

労働契約法第19条では上記の2タイプに分類しているのですが、もう少しきめ細かく、期待保護タイプは、強い期待タイプと弱い期待タイプに分かれるという指摘もあります。

このタイプ分類は、単に講学上分類しているということではなく、雇止めの有効性判断にも影響するともいわれており、実質無期タイプと強い期待保護タイプでは、雇止めに客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性が必要だが、弱い期待保護タイプでは不合理ではない程度の理由で足り、純粋な有期雇用の場合はそもそも類推適用の余地がないという具合に整理できるとの指摘もあります。

どの類型の有期雇用契約に属するのか

どの類型に属するかは、契約書の文言で決まるということではなく(とはいえ、契約書を作成していないようであれば、そもそも有期であることの主張もおぼつかないことにはなります)、実質的に判断されるものです。

その判断要素は、①業務の客観的内容、②契約上の地位、③当事者の主観的態様、④更新の手続や実態、⑤他の労働者の更新状況、⑥その他、であるという裁判例の分析調査結果があります。

①業務の客観的内容では、有期労働契約の労働者の業務が恒常的なものか臨時的なものか、正社員の業務と同一か異なるかなどが検討されます。正社員と変わらない恒常的な業務である場合は、実質無期タイプや期待保護タイプになじみやすいということになるでしょう。

②契約上の地位も、基幹性が強いか臨時性が強いかなどが検討されます。

③当事者の主観的態様では、継続雇用を期待させる使用者の言動等はあったか、更新についてのどのような説明があったかなどが検討されます。

④更新の手続や実態は、反復の程度、勤続年数などのことですが、いうまでもなく反復回数が多く、勤続年数が長くなればなるほど、実質無期タイプや期待保護タイプになじみやすいことになります。また、期間満了毎に更新手続が厳格にされているわけではなく、期間経過後に更新していたといったことがあると、実質無期タイプになじむことになります。

⑤他の労働者の更新状況は、同様の地位にある有期雇用者の雇止めの有無などですが、他の有期雇用者も更新が反復されているような場合は、実質無期タイプや期待保護タイプになじみやすいことになるかと思います。

⑥その他の要素としては、契約締結の経緯や更新回数・勤続年数の上限設定があるかなどが挙げられます。契約締結の経緯は、将来の景気変動、業績変動に備えるために有期としたという専ら会社都合のこともあれば、勤務条件等の関係で労働者自身が有期を希望しているといった場合もあり、重要な要素となるように思います。また、更新回数・勤続年数の上限設定があり、これが厳格に運用されていると、弱い期待保護タイプとされることもあるかと思います。

上記のとおり、雇止めは様々な要素からその有効性が判断される複雑なもので、少なくとも有期雇用契約であるから契約終了させやすいと考えるのは危険です。上記判断要素を参考に現在の有期雇用契約を振り返ることは、人事労務政策上も有益だと思います。

R3.7掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。